第29話 皇都へ

皇都の魔法学園へ旅立つ時がやってきた。


城の前に馬車が2台並ぶ。一台は僕とビアンカ、それと僕付きとなった侍女のカトリーヌが乗るための豪華な馬車。もう一台は荷馬車で主に護衛が乗っている。


馬車が旅立つ広場にはドレイン方伯と衛兵、召使い達がずらりと並んでいる。その中にアルフレッドさんとアクセルさんの姿があった。


「体に気をつけるんだぞ」

ビアンカの頭を撫でながらアクセルがいう。


「パパ、私頑張る!手紙を書くから遊びにきてね」

「えっ? ビ、ビアンカは文字が書けるのか・・?」


「カイトに習ってるんだ。」

「そうか、偉いぞビアンカ。これから貴族になるために色々な知識を身につけるんだぞ」

そう言ってビアンカを抱きしめる。


「カイト!!!・・ビアンカを頼んだ。」

「任せてください」


その言葉と同時にビアンカが僕の方に走ってきた。

ビアンカを抱えながら僕はドレイン方伯へ頭を下げる。

「それではお父様行ってまいります」


ドレイン方伯はにこやかな笑顔をみせていた。ラノベではこんな笑顔を見せる人だとは思わなかったが、父と息子になると違うのだろう。

僕はビアンカの手を持ち馬車に乗り込む。


御者が馬を綱でたたき馬車が進み出す。

アルフレッドは笑顔で手を振り、

アクセルはさっきまで見せていなかった涙を流しているように見える。


そうして多くの人に見送られて商都リブストンを後にした。




**********


アクセルの顔を見て故郷の父ちゃん母ちゃん、そしてエレナちゃんの泣き顔を思い出してしまった。

父ちゃん母ちゃんも僕がいなくなって泣いたのだろうか。

エレナちゃん・・・今頃どうしてるかな・・・・。

その晩、僕は寝れなかった。。


**********


馬車は一路皇都ロンドアダマスに向かっている。


「カイト様は不潔なのでございますね」

馬車に同乗する侍女のカトリーヌがサラッととんでもない事を言う。


「不潔!?そんなに汚くないと思うけど」

慌てて片手腕を上げて匂いを嗅いだ。うーむ臭ってないと思うけど・・。


「ビアンカはカイトのあいじん。ムニャムニャ」

もう一方の腕にはビアンカが腕に抱きついたまま寝言をいっている。

そしてビアンカの口から流れ出たよだれがべっとり右腕についていた。


これか!!僕は「不潔」の意味を理解した。


「幼い少女を手篭めにする行為をこの国では鬼畜と申します」

言葉変わったような気がするが・・。


「ビアンカを手籠??・・・。ビアンカは剣の師匠の娘だよ。ハハッ」


「師匠の幼女に手を出す人をこの国では外道と呼ぶそうです。」


「手は出してないって!」


「カイト様のご趣味はよく分かりました。カイト様が不潔な鬼畜の外道であってもお手伝いするのが私の役目ですので」


「誤解だー。」

思わず大きな声をあげてしまった。


「僕はビアンカを妹のように思ってるだけだから。」


「ビアンカはカイトのあいじん。妹じゃないもん。むにゃむにゃ。」

ビアンカを起こしてしまったかな??


「話をややこしくするなっ」

ビアンカの頭を軽く叩く


「いてっ」テヘペロ

やっぱり起きてた??


「カイト様のご趣味は理解いたしました。今後はそのように配慮いたします」

穢らわしい物を見るような目を向けるカトリーヌ。


「ちがーーう!」



馬車は一路皇都へ向かっている。



**********



今回の馬車の旅はこれまでの移動距離よりも倍ほど長い距離を走る事になる。

時間も倍かかるかと言うとそうでもない。道が良いのだ。

皇都とリブストンを結ぶ主要街道だからだろう。なんと道が石で舗装されている。


もちろん凸凹も多く完璧ではないが、雨ですぐぬかるんだりする未舗装の道と比べると圧倒的に馬車が走りやすい。


日本では明治あたりまで道が舗装される事などほとんどなかったわけなので、この世界の文明レベルが非常に高い事がわかる。(文明度の尺度は様々だが)


そのうち鉄砲が出てくるのかもしれないな。

この世界にはどうやら鉄砲は存在しないらしい。いや、火薬もまだ存在しないのかもしれない。元の世界では火薬は中国で生まれた。元寇の時に火薬を使った武器が使われる絵が日本にも残されているし、火薬の歴史は古い。


火薬ってどうやって作るのだろうか?硝石という石?があるのはラノベの知識であるのだが・・・「知識チートで世界最強!」というラノベ原作アニメを思い出す。

チート・・憧れるなあ。


でもチートしようにも、肝心の知識が僕にはない。火薬の作り方の知識を持っていないのだから話にならないのだ。

あー!もっと勉強しておくんだった!!と今更ながら後悔するが転生してしまってからは後の祭りである。


皇都までは何本もの川を渡るが、主要街道という事で全てに石の橋が架けられている。

そして主要街道は村も多ければ街も多い。


10日目に訪れたロックフォードと言う街はかなり大きな街だった。

人口10万人くらいはいるのではないだろうか?街並みは薄黄色い漆喰に統一されていて赤黒い屋根が特徴的な街だった。

そこからはさらに街道も太くなり、馬車が楽々とすれ違うことができるほどの幅に整備されていて馬車旅のスピードもさらに上がった気がする。




そして、とうとう長い旅が終わりを迎えた。


皇都ロンドアダマスに到着したのだ。


うっすらと夕日によって染まるロードライズ川越しに望む皇都ロンドアダマスは美しさとともに雄大な姿を見せている。


街の中央は少し丘になっているのだろう、周辺の街並みより高い位置に皇帝の居城と思われる大きな城と一体化した5階建てほどの建物が壁のように横に長く広がっている。

その姿は街の半分を居城、いや宮殿が占めているのではないかと思うほどだ。

城下に広がる街並みは白や薄黄色の3、4街建ての建物が所狭しとひしめいているのがわかる。

美しくて雄大な街を水面に写すロードライズ川には多くの荷を積んだ船が忙しなく行き交い、それがまた絵になる。


「とうとう来たんだ・・」

僕がそう感慨深く呟く


「とても綺麗だねカイト・・・私カイトに感謝してる。パパとはすぐにはあえなくなったけど・・。カイトと一緒にこんな街にこれたんだからね」

ビアンカが大人っぽいことを言った。



「カイト様、皇都には誘惑が色々ありますが、女遊びはほどほどにすることを進言いたします。」



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