第27.5話 居酒屋(小話)
木の剣でボコボコにされたその日の夜、夕食後に「しばしの別れだから奢ってやる」とアクセルに飲みに誘われた。
アクセルはエール2杯注文する。
やってきたエールを片手に「ビアンカの門出に!」そう声をあげると僕が声を合わせるのを待たずにガブガブ飲み始める。
アクセルにとってはビアンカの門出だ。僕はそのお付きの者にすぎない。
飲み始めるとアクセルはビアンカのことを考えてか、シンミリした声で「3年前・・・」そう話し始めた。
「3年前・・・俺は傭兵としてある貴族同士のいざこざに駆り出された。
その貴族は土地を領有する子爵・・まあその土地の土豪だな。そいつは隣接する貴族領と川の水の利用を巡って争っていた。
夏の終わり頃、収穫時期がもうすぐだという時に、相手の貴族のところの農民が領内に侵入して荒らし始めたんだ。まだ青い麦は刈り取られ、被害を受けた農民は相手の麦畑でも同じことをする。次第にエスカレートして農民同士が殺し合いをはじめちまったんだな。
俺は子爵に雇われ、子爵の兵隊として領内に侵入した奴らを追い払ったんだが、その時に焼かれた家の前で泣いているビアンカを見つけた。いつもはそんな子供に気を留めることはないんだがな。
半狼人族の娘だったからかもな・・・。妙に可哀想になっちまって、俺はビアンカを抱いて子爵の軍から離れた。」
「そんなことがあったんですね・・。 ビアンカの両親は・・?」
「殺されていた。殺されて家に火を付けられたらしい」
「ビアンカ・・・。可哀想だな。」
そんな過去があるのにあれだけ明るく元気に育っている。アクセルさんの愛情をそこに感じる。
「そうだ。だから俺はビアンカを可愛がった。
いや、ビアンカには両親の死を乗り越えて欲しいとも思ったが、それは俺のためだ。
殺伐とした傭兵家業を続けていた俺にビアンカという天使が舞い降りたんだからな。」
「ビアンカを本当に愛してるのですね」
「俺にとっては本当の娘だ。この3年間はビアンカのために生きてきた。」
ドン!!
アクセルはエールを飲み干すと木のジョッキを机に叩きつける。
「それをお前がぶち壊したんだぞ!」
アクセルは怒った顔をしたが、声は怒っていなかった。
「お前に娘を託す。絶対に守れよ。」
「わかりました!絶対に守ります。」
「手をだすなよ。 俺は時々様子を見にいくからな・・・・手を出してたら承知しない」
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