第26話 ドレイン方伯

教会が用意した馬車に乗せられドレイン方伯の城の前まで来ている。


城の門は巨大で兵士5人が警備を行なっていた。中にはもっといるだろう。

この門をくぐるともう逃げられない。


とはいえ馬車の中の僕は何もできない。両脇に白装束がガッチリ座っていて、なすすべもなく馬車は門をくぐり城に吸い込まれていく。


馬車から降り城の中に建つ屋敷に案内された。

通された部屋は薄暗く狭い。

まるで警察に取り調べを受けるかのような雰囲気である。


いや、いや、本当に取り調べを受けるのであろう。何でも吐きますので拷問だけはやめて欲しい・・。


しばらくすると衛兵が扉を開け、高貴な雰囲気を漂わす初老の男と、小太りで黒髪を短く切り揃えた男が煌びやかな服を靡かせて部屋に入ってきた。


ラノベでは挿絵にすら出てこないが、原作の描写からして明らかにこの小太りの50前くらいの男がドレイン方伯だろう。


ドレイン方伯と思われる男が私の前に腰をかけ、まじまじと顔を見てくる。


「君がカイト君かね?」

「はい・・・。」


「私が誰だかわかるかね?」

「ドレイン方伯様です」


「君は自分が私の子供だと言っているそうだが?」

「貴方の子供ですので。。」


「私は君を知らないな」

「貴方は知らなくても僕は知っています。貴方は私の母を捨てたんです!」

少し涙ぐむ(フリをする)


「ほお。 ではその母とやらの名前は何という?」


「母の名は…。ア、」

「あ?」

方伯が怪訝な顔をする。


「ア、あの。それは必要ですか?」

「当たり前であろう。」


「イ、」

方伯が怪訝な顔をする。


「イ、言わないといけないんですね」

「そうだ。いったい誰かね?」

圧力が凄い。怖い・・・。


「エ、」

方伯がやっぱりと言う顔をする。

「エ、エリ、」

「エリザか。」

「はい。。エリザ母様です。。」

カイトは泣きそうな声をだす。もちろん演技だ。


どうやら方伯は思い当たる節があるらしい。

違う反応だったら、襟が汚れていますよ!と言うつもりだったが、それはかなり苦しかっただろう。


僕は胸を撫で下ろす。


「エリザには悪い事をした。そうかエリザが子をもうけていたとはな。

教えてくれれば養育費くらいは出してやったのにな。はははっ」


何故か笑う方伯。


ちょっと良いやつかもしれない。と思ってしまった。(良くないけど)


このドレイン方伯、ラノベに出てくる設定では実の父を毒殺したことになっていたし、女遊びしまくりで、鬼畜な息子を甘やかすわ、息子のために簡単に人は殺すわのバカ親。さらにゲーム設定での最後は皇帝の跡目争いに乗じて国を簒奪しようとするとんでもない奴だっただけに、どんな悪魔かと思って正直ビビりまくってたんだよ。

少し安心した。。ホッ


「それにしてもカイト君、いやカイトは凄い才能の持ち主だそうじゃないか!

さすが我が息子だ!

家督はやれんが将来お前には重要なポジションをやる。

これからはこの家の人間として立派になってくれ。」


「はい!お父様!!!」

ウルウル(涙)※恐怖から解放されて安本当に涙をながした。


後ろに控える初老の男性も涙ぐんでいる。


「部屋は用意してやる。今日からはこの城がお前の家だ。」


ドレイン方伯は後ろに控える初老の男性に目配せする。


「お父様!!ありがとうございます!亡くなった母も浮かばれます!」


思わず母を殺してしまった。その方が都合が良いよね?


「エリザは亡くなったのか。さぞ辛い思いをしただろう。しかしこれからはドレイン家を盛り立ててくれ。」


「はい!!

あの、お父様、頼みがあるのです」


そこで僕は切り出す。


「なんだ。言ってみろ」


「私は魔法の才がある事がわかりました。ですので魔法学園に行かねばなりません。」


「確かにそうだな。お前の兄になるゲイルも今魔法学園に通っている。一緒に皇都の屋敷から通うが良い。」


「えっ。と・・。」


いきなりゲイルが住む屋敷に押しかけて、兄弟なので一緒に住みますってのはまずい気がする。

元のゲイルは絶対ダメだろうし、ゲイルの中の日本人(美剣城真人)は良いやつだがナルで女性にしか興味がない事は変わらない。

いきなり一緒に住むと言うのは絶対に嫌われてしまう・・。気がする。


「ゲイルと一緒ではいやか?」

動揺を見透かされたようだ。


「まずは、魔法学園では寮に入りたいのですが・・。ゲイル兄様も突然知らない男が弟を名乗って屋敷に上がり込むのをよしとはしないでしょう。」


「さすがは我が息子だな!確かにその通りだ!

ゲイルはあの性格だ。お前が突然屋敷に上がりこめば血を見るのは間違いない。

わはははっ!

では学園寮を手配しよう。」


血を見るところだったのか・・。


「ありがとうございます。

あと、もう二つほどお願いがあるのですが。」


「魔法学園は願いには入らん。それがお前の義務であり、我が家の人間の責務だ。

願いを言ってみろ。」


「お父様に会うために世話になった商人がおります。その商人にお会いになっていただけませんでしょうか?

出来ればその際に褒美も・・。」


「お前がどのようにしてここに来たのかは知らんが、息子を助けてここに連れてきてくれたと言うなら会って褒美を取らすのは当然だな。

もう一つの願いは?」


「その商人の護衛の娘が同じく魔法を発現しました。魔法学園の児童寮に入れてやりたいのですが、構いませんでしょうか?」


「魔法学園は皇国が国費を投じて運営している。魔法を発現させた者が学園に入るのは義務だ。児童寮であっても費用は皇国が負担するはずだが? 私に何をしろと言うんだ?」


「いえ、それであれば何も問題ありません。その子を真聖教会の修道院ではなく学園で学ばせてあげたいだけです。」


ドレイン方伯はそれで理解した。真聖教会のパオロが狙っていると言う事を。


「わかったパオロに言っておこう」


「ありがとうございますお父様!」


***


ちなみにドレイン方伯はゲイルの親なだけあり超のつく好色家だ。

特に羽を伸ばせる皇都では覚えららないくらいの女を抱いて来ていた。なので、「ア」も思い当たる節もあれば、「イ」も思い当たる節があった。

当然「エ」もエリザだけでなくエルザもいればエリーゼ、エミーラ等々色々抱いていたので当たる確率は元から高かったといえる。


そもそも、ドレイン方伯がカイトを自分の子だと簡単に納得したのは、母の名前ではなくカイトが魔法の天才だと言う事実についてである。

エリザのことも顔と体は覚えているが、どこの貴族の娘だったのか?いや貴族の娘だったかどうだったかも覚えていない。


しかし皇国史上初の5属性もちの魔法の天才が我が子である事実は方伯にとって疑う理由は何もない。

なんなら養子にしてでも迎えたいぐらいの逸材なのだから。



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