第25話 軟禁

「至急ドレイン方伯に使いを出せ!!」


大司教パオロの頭は混乱していた。

パオロが差配するヨースランド教区は、グローリオン皇国の真聖教を束ねる枢機院とは別に完全に独立した自治を獲得している。

その背景にはドレイン方伯の皇国での勢力の拡大がある。


パオロも先代の大司教もそのドレイン方伯に擦り寄ることで政治的発言力を得て枢機院からの独立を維持してきた。パオロの皇都での女遊びもドレイン方伯様々であった。


天才的な魔法適正を見せた男がそのドレイン方伯の息子だと言うのだ。


よく考えると、それならあの魔法の才も納得がいく部分がある。

ドレイン方伯の長男であるゲイルは基本3属性の魔法を発現させ魔法学園に入学している。魔法学園でもその才能は群を抜いているようで、天才だと噂されているのだから。

その血なら・・・ありえる。


そしてドレイン方伯の子息であれば、あの場のパオロの発言はとても許されるものではない。ドレイン方伯との関係を拗らせるわけにはいかない。

まずい。まずいのだ。どうしたらいい?



**********



ラノベ「悪役に転生したけど死にたくない」でのパオロ大司教の事を思い返す。

ラノベは魔法学園2年生途中までしか進んでなかったためパオロ大司教が直接出てくる事は少なかった。

裏で何やら動いている程度で主人公ゲイルと接触はあっても直接の被害はなかった。


しかしラノベの舞台は異世界女子攻略ゲームの世界。そのゲーム世界では主人公に敗れたゲイルが学園卒業後にパオロ大司教の悪事(悪魔召喚)に加担して大惨事が引き起こされる(らしい)ので、今のパオロも悪魔召喚を目論んでいる事は間違いない。

そのためのコマとして僕の力が必要だったのだろうか??

それはわからない。



僕とビアンカは一旦宿に戻ってきたのだが、何故か側に教会の修道士が2名ついてきている。


「あれだけの魔法の適正を見せられた貴方の安全を確保するのは教会の役目です。」

勝手についてきた一人の修道士の女は淡々とそう説明した。


いつまで付いてくるつもりなのだろうか?

もしかして僕の話の真実がわかるまで・・とかではないよね??


宿に到着しても修道士の女は宿代も払ったのに自室には行こうとせず、僕の部屋の前までもついてきた。

どこまでついてくるねん!!

僕は心の動揺を抑えきれず関西弁でツッコミを入れていた。


「私はここで護衛せよと大司教直々の命を受けていますので」

どうやら僕の部屋の扉の前を占拠するつもりらしい。


監視ですか、さいですか・・。


それにしてもいやー。疲れた。

あの場は乗り切れたけど、これドレイン方伯に確認とったら嘘ってすぐバレるだろうし・・。まずいことになってきました。


バレたら確実に死刑だ。あの極悪非道のドレイン方伯だから間違いない。

もちろん、あの方伯の息子なんて勝手に名乗る僕も悪いけど・・。


死刑はいやだ〜〜〜!


扉の前には監視がいる。どうやって逃げ出したらいいんだ?


いやいや!僕が逃げたらビアンカは確実に修道院で飼い殺される・・・。

それも避けなければならない。

どうせ監視はこの女性だけではないだろうし。


窓にかかるカーテンを開け、この世界では貴重なガラス窓を少しだけずらして下を見る・・。あっ。やっぱり。

教会の人間はみんな白装束なのでわかりやすいな・・。


3階の窓から脱出も難しそうだ。何よりこんなところから落ちたら死んじゃうし。


そんな事を考えている間にも時間は過ぎていく。

夕方4時くらいだろうか。

うっすら空が紅くなってきた。


いやーー!!!バレちゃうバレちゃったら死ぬしかない!!

逃げる!?この街から?どうやって? 道をふさぐ奴は全員たたき切る?無理無理!僕、剣に自信ないから!


考えつかない。頭をくるくる回してみるが、何も良い案は出てこない。

首の骨がゴキゴキ言うくらいだ。


コンコン。

ドアがノックされ、ビクッと体が震える。


「は、はい、」

ドアを開けると白装束を着た男が立っていた。

とうとうその時(死)が来たのか!!


「な、な、な、なんでしょう??」

動揺しすぎてドモリまくる。


「ドレイン方伯がお会いになるそうです。」

やっぱりキターーーーーーー!!!(終焉の時が)



***********

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