第24話 カイトの正体

2日後に大聖堂の使者が宿にやって来た。僕とビアンカの魔法適正をもう少し詳しく調べたいとのことだった。


もちろん断る理由はない。僕も自身の魔法について知りたいので快くビアンカを連れて聖アウグスト大聖堂を訪れることにした。


相変わらず薄暗くて少しきみが悪い大聖堂の祭壇前には10人ほどが礼拝している。

その周りには白装束の修道士が6名、祭壇の上には助司祭と司祭、そして青を基調とした煌びやかな装束を纏う太った男性が立っていた。


僕とビアンカはまず祭壇の前で跪き神に祈りを捧げる。

僕は敬虔な真聖教の信徒・・の息子だからね。子供の頃から祈ることは母ちゃんに厳しく躾けられてきたんだ。


しかし、その祈りは中央に立つ太った男性がによって遮られる。

「よく来たカイト君、ビアンカ君。さあ顔を上げたまえ」


人の祈りを邪魔するなんて、聖職者の風上にも置けないやつだ。

先日、助司祭に注意されたことを根を持っていた僕はそのまま祈りを続ける。


祈り終えてから立ち上がると、祭壇上の聖職者だけではなく祭壇前にいた10人の信徒らしき人たちからジロジロと視線を感じる。みな貴族の装いをしている人たちだ。

なんか鬱陶しいんですけど・・。


「カイト・・なんかこわい。」

ビアンカが僕の腰のあたりを掴む。

「大丈夫だよ。」


「ここではなんだな。場所を移そうかの。」

太った男はそう言うと、祭壇を降りて修道士と司祭達に囲まれて歩き始めた。

僕とビアンカが戸惑っていると助司祭が僕に近寄ってきて小声で「大司教パオロ様です」とささやく。


なるほど、先日の魔法適正を聴いてトップが出てきたわけだ。



「5つの基本属性すべて発現させたそうじゃな。素晴らしい。君は神の寵愛を一身に受ける者だろう。」

先日と同じ大きな部屋に通された僕たちに大司教が声をかけてくる。


「では早速始めましょう。

今日は先日より複雑な魔法具を用意した。まずは火を飛ばす魔法具だ。

奥の壁に用意した的を狙ってくれるかな。杖の先から火が生まれ、その火が的に向かって飛ぶイメージで念じたまえ」

ベネデッタ司祭がそう言うとアベル助司祭より大きな赤い宝石がついた長い杖が渡される。


魔石に精神を集中しつつ杖を的に向けてふり、『火よ飛び出よ』と念じる。

赤い宝石が光を放つ


ボッ!ヒュー ボッ!


先日とは違い杖からは松明ほどの火が生まれた後、スルスルっと前に進み的近くの壁に当たり消える。


「素晴らしい才能だ。すべての基本属性が使えればその組み合わせの複合魔法も使えるからな。使えて当然ではあるのだが、やはり素晴らしい。

試しにウォーターボールとウインドスラッシュの杖も試して欲しい。雷撃はこの部屋では危ないので使わせるわけにはいかないが。」



***



ベネデッタ司祭が言う通り、僕は渡されたすべての魔法具を発現させることができた。


「ほお。ベネデッタの報告通りというわけじゃな・・・。すごいギフトをもっておる。ガハハッ」

大司教の顔は何故かニヤついている。


「いえ、いえ、私など貴族の末席を汚す者です」


なんだか大司教のニヤつき顔が気持ち悪いので大謙遜しておかないといけない気になった。この人苦手かもしれない。


「次は再生の魔法具だ。治癒の魔法を使える事が前提となる非常に高度な魔法で、使えるものは皇国でもほんの一握りになる。

発現する確率は非常に低いと思うが試しにやってみてくれ。

今回は枯れかけたこのもやしを用意した。もやしに杖を向けもやしが元気な姿を想像し『蘇れ』と念じるのです」


渡された小さな杖には似つかわしくないほど大きなダイヤのような石が付いている。

もやしに向けて杖を振り『甦れ』と念じてみる。


ぴょこん。


なんと水分不足で横になって枯れかけていたもやしが起き上がった。瑞々しさも出ている。


「おおおおーーーーー!!!」

「こ、これは・・・・。」

これには見守っていた司祭や大司教まで驚きの声をあげる。


「再生持ちか・・・。君はいったい・・・・。」


「ここまでで良い!」

野太い声で大司教パオロが適正検査の中止を宣言する。


「転移がまだですが・・・。」

「もう良い。

それよりもだ。この神からの盛大なギフトを持つ若者の将来の話をしようではないか。よろしいかなカイト君」


「は、はい。、」

ちょっと嫌な予感がする・・。


「君の力は神からの恩寵そのものじゃ。その力は神の御心に沿って使わなければならない」


「はい・・。」


「すぐにでも助司祭に任じたいところだが、そう言うわけにもいかん。悪いが、まずは修道院に入りたまえ。」


「はい???」

僕は怪訝な顔をする。嫌な予感が的中した。


「もちろんその女児も一緒に入って構わん。」


「いや、それは、、。」


「なんだ不満か? 悪いようにはせん。神に使えるものの身分は高いぞ。

信心深く精進すればすぐに助司祭、司祭に引き立ててやろう。」


「断ります。」


「なぬ?」


「僕は魔法学園に入りたい。いや、入らなければならないのです」

キッパリ断ってやった。


「ほう、教会のトップたる大司教のワシまで使っておいて教会になんの恩も感じないとは恐れ入る。

さて、君は貴族の子息と言っとるそうじゃな。貴族であれば無理強いは出来ん。

誰の子息だというのじゃ?」


「そ・・それは言えません」


「では一庶民じゃな。教会として魔法発現者の保護は最優先だからの」


「そ、そんな。魔法学園には魔法発現者全員に入学する機会があるはずです!」

僕はラノベ知識で反論する。このままだと強引にこのジジイの教会に引きずり込まれてしまう。


「そうですね。カイトの言う事は正しい。大司教!今の発言は皇国法に反します。」

意外な事にベネデッタ司祭が大司教に反論して僕を庇ってくれた。


「黙れ!!誰に口を聞いておる!

平民の魔法発現者を保護する事は教会の立派な役目じゃ!

まあ、だがそうじゃな皇国法では魔法発言者の魔法学園への入学は権利として保証されておる。

しかしその娘はどうじゃ?魔法学園入学までは修道院で保護する事はなんら問題ない。」


「カイトどう言う事?」

ビアンカは大司教の恫喝に怯えた顔して僕の服を引っ張る。


「大丈夫。そんな事させない。」

悲しい別れはもう嫌だ。ビアンカをこんなジジイに取られるわけにはいかない。


「わかりました。私の父を教えます。」


「誰じゃ?どうせ田舎の子爵であろう。言ってみろ」


「父はドレイン方伯です!」


「へ???」



「え、えええーーーーええ!!!。」



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