第23話 神の呼び声

聖アウグスト大聖堂には、これまでの多くの偉大な使徒(真聖教会を支えてきた聖職者)の遺灰やミイラを聖遺物として埋葬する地下空間がある。

こういった地下空間は大聖堂を持つような大きな教会には共通して存在するが、聖アウグスト大聖堂はその中でも大きい。


この地下空間の中心には英雄アーノルドの偉業と慈悲を後世に伝える大きな役目を果たしたとされる使徒アウグストが眠る。

このアウグストは再生魔法の使い手で、アーノルドのように怪我人を癒し、孤児達を救うために孤児院を積極的に建てたと言う。ヨースランド領では修道院に孤児院が併設されることが多いのはそのためだ。


さて、

その地下空間に作られた広い部屋には縦に三本赤いラインの入った白装束(教会のものとは明らかに違う)を着た男女が20名弱集まっている。


「揃ったようじゃな」

古びた書物を脇に抱えた男が喋り出す。大司教のパオロだ。


「急遽集まってもらったのは他でもない。真の真聖教徒たる我々が神の求めに応じ、事をなす時が来たからである。」

太った体から出る声は威厳に満ちている。


「今日、神は私達の前で奇跡をおこされた。」

ざわつく白装束の男たち。


「5つの属性を扱える少年が我々の前に現れたのだ。」

「おおおおーっ」

「奇跡だ。」

「神よありがとうございます。」

「神の呼び声に応える日は近い・・」

集まった白装束たちからはどよめきと共に口々に感想が述べられる。


「して、その少年とはどのような男で?」

60前後の男が質問を投げる。


「それはアベルから話す」

アベルと呼ばれた助司祭は今日の出来事を説明すると、また白装束からどよめきが起きる。


「それにしても信じられませんな。5属性全てというのは。」


「とある貴族の子息で15歳ですか。

・・・・・・。

思い当たる人物はおりませんね」

白装束の金髪の女は首を傾げる。

女の首には煌びやかなネックレスがかかっており、聖職者や修道女でない事をものがたっている。


「現在15歳で幾つもの魔法を発現させたといえば、真っ先に思い浮かぶのはドレイン方伯のご子息ゲイルでございますが、カリーナ夫人が思い当たらないとおっしゃるのであればそのゲイルではないのですな。」


「ゲイルはエリシア様の子ですので・・・。私は親しくしているわけではありませんが、ゲイルなら魔法学園に入学のために既に皇都ですわ」

カリーナ夫人と呼ばれた女が答える。


「ゲイル様であれば私も気付きます」

助司祭であるアベルもゲイルであれば気づかないわけはない。


白装束の一団は少年の正体を巡ってざわめく

「では、誰も心当たりがないと言う事でいいのじゃな?」

全員心当たりはないようだ。発言するものはいない。


「そうか・・。わかった。またその少年と同行していた少女も火と水を発現させたと聞いた。」

また白装束がざわめく。


「その少女はクラークスの傭兵の娘だそうじゃ。なので少年もその辺りの子爵の子息かもしれん。子爵など星の数ほどおるからの。判らんでも仕方がない。

・・まあいい。

明後日この大聖堂に呼び出す。その時確認すれば良いのだ。ようはどうやって引き込むかであろう。」

大司教パオロはそう言うとため息をはく。


「さて、もう一つある。

集まった皆に新たに手に入れた神の書物ボンエイの書をお見せしたい。古の大陸の大魔術師ボンエイが残したとされる書の写本じゃ。

コレッタ、これを皆に」

重厚な装飾がされた薄汚れた本をコレッタと呼ばれた白装束の女が受け取り皆の前に差し出す。

「おおおおっー」

どよめきが上がる。


「こ、これはどのような書で?」

「解読が出来ているわけではないがな、入手したものの話しから察するに、神のしもべたるツァトゥグァ様やその眷属の事が書かれていると聞いた。眷属の召喚魔法が記されている可能性が高い。ツァトゥグァ様の身元にたどり着く転移魔法もあるかもしれん。」

「おおおおおーーー!素晴らしい!!」

「これでより一層我々は神の御元に近づけるであろう。」

「この結社に参加した価値がありますな」


「先に解読が進んだ写本ネクロコンストと違い、古モコル語で書かれているため難解なのだ。この世に2つとないであろう大切な書物だからの。写しとり、皆で解読を進めてほしい。よいな?

必要であれば我が結社に通ずる司祭・修道士の力を貸してもよい。

聞こえし神の呼び声は我らを照らす。神の御心のままに。」


「聞こえし神の呼び声は我らを照らす。神の御心のままに。」



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