第10話 収穫祭

村の教会と広場では一年で一番贅沢なイベントである収穫祭が行われていた。


収穫祭は神への収穫の報告と聖職者による祝福の儀式から始まる。

だから今、父と兄達は教会に行っている。

その間に女衆は村総出で料理をつくり、子供は広場で宴の用意をする。毎年恒例の光景だ。


収穫の一部は教会へ寄進されているのだが、収穫祭では神への収穫の報告と言う名目で、寄進内容が読み上げられる。寄進の量は暗黙の了解で収穫の1割なので皆の収穫量がわかるしくみだ。

要するに収穫の報告というのは建前で寄進を誤魔化すことが出来ない仕組みになっているわけだ。ちょっと怖いよね。


「クロム、ケント、トマス 35ペント」

助司祭の傍らにいる修道女が大きな声で読み上げる。


クロム(父)ケント(長男)、トマス(次男)はそれぞれ助司祭の下に行き頭を垂れ、両手を前で組む。


「これらの恵みは天地を造られし神の御心であり、汝らの信仰に対する祝福です。

これからも信仰心をもって励めば神は汝らが行先を照すでしょう。

・・

これからも恵みが与えられ平安な暮らしが続くよう私も神に祈りましょう。」


助司祭は赤い宝石が輝く金の杖で、クロム、ケント、トマスの肩を叩いていく。

「神よ汝らに祝福を」


3人はもう一度頭下げて席に戻っていく。


この流れを家毎に繰り返し、最後に神を讃える歌を唄って儀式は終了した。


ゾロゾロと大人たちが教会を出て村の広場に集まってくる。


村人が揃い村長が挨拶し乾杯コールをすると宴はスタートだ。

「大いなる神に感謝を!!」

大人達がエールを掲げ次々に乾杯していく。


さてこのエールだが、この村にはエールを作る酒蔵はないので、二つ離れた小さな街の酒蔵から毎年特定の商人が大量のエールを運んでくる。

もちろん秋の収穫祭で売るためだ。

大人たちが麦を売った金でエールをたらふく飲める一年を通して唯一の宴会。それが収穫祭だ。と僕は思っている。


「みんな楽しそうだね。」

エレナちゃんが僕の隣にやってきた。


「収穫祭だからね。うちの父ちゃんも久々に酒が飲めておおはしゃぎだな。僕も酒が飲みたいよ」


僕は日本で高校生だったけどビールは体験済み。それどころかビールが好きだった。親父が家でビールを美味しそうに飲むもんだから小学生の時から少し飲ませてもらったりしているうちに好きになってしまったんだよね。

なので高校生になってからは親父のビールを勝手に飲んでてビールが無い!と怒られた事がある。


「エールは成人になってからね。

エール飲むとなんであんなに陽気になるんだろう。ねっ。」


「エレナはお酒飲んだことないの?」

「ないよないよー。えっ。カイトは飲んだことあるんだ。ね?」


「フフッ」

「ど、どうしたの?その笑い」


「いやエレナは子供だなーっと思ってね」

「もう。バカにして。もうすぐ成人なんだもんね。カイトより先に大人になるんだからっ」


「もちろん飲んだ事はあるよ。お酒」

「い、今も飲んでる?」


「今は飲んでない」

「嘘だ。なんか今日のカイトは陽気だし大人っぽいし。」


「フフフッ」


エレナは今日のカイトのいつもと違う雰囲気に違和感を感じる。


「エレナは秘密を守れるかな?」

「秘密って?」


「秘密を守れるなら教えてあげる」

「うん・・。守るよ。」


「いい子だ。ちょっと来て」


カイトはそういうと丸太の席を立ち、人だらけの広場から離れるように歩いていく。


エレナは誘われるままカイトの後をついていく。

そして、暗くて人がいない場所までくるとカイトは言った。


「実はね。僕は成人になる時に皇都に行くんだ。」

「えっ??どう言うこと??」


「そのままだよ。僕は15になったら皇都へ旅立つんだ」

「嘘っ!! そんなの嫌だよ」

エレナは泣きそうな顔になる。


「嘘じゃない。実は僕は貴族の息子なんだ。だからここを立つ」

「そんな事ない。私はカイトがちっちゃな時から遊んでた。」


「確かに遊んでたけど。。」

「ちっちゃな時から遊んでたよね。。」


「そうだね。。。

でも僕は貴族の息子なんだ。だから皇都に行くんだ」


「嘘だ嘘だ!カイトの嘘つき!」

エレナは泣き出してしまった。


どうしよう。。


慌てたカイトはエレナを抱き寄せると泣きじゃくるエレナの口を引き寄せ口づけをする。


エレナは一瞬驚いた顔をしたが、求めるようにカイトの口づけに答えた。

どれくらいお互い相手の唇を奪い合っていたのか。

エレナは泣き止み。カイトを見つめた。


「私を皇都に連れて行って・・・」


まるでスキーにいく原○知世のような神々しさをエレナに感じたカイトは思わず頷いてしまうのであった・・。


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