第11話 春
バーン村はグローリオン皇国の南東部に位置する。皇国の南側は比較的温暖な地域だがアルト山脈が近く少し標高があるため冬の雪は多い。
そのため冬支度は忙しい・・。
薪になる木を切って運び、豚屠殺して塩漬けにする。また冬の間の豚の餌として干し草やどんぐりなど集める。
雪深くなるとあまり外に出れなくなるので準備は重要だ。
そんなこんなで厳しい冬を迎えた。
寒いのなんのって。
問題なのが隙間風。これさえ無くなれば随分暖かくなるのにと思うが、部屋の中で火を焚くので締め切ったら一酸化炭素中毒を起こすのかもしれないとも思う。
寝室という名の藁まみれの部屋の藁は冬になるととんでもなく沢山になっている。
そうじゃなきゃ凍死するからだ。
冬の間は室内で出来る作業をする。
母ちゃんと姉ちゃんと僕は主に縫い物や編み物。
父ちゃんと兄ちゃん達は道具を作ったり修理したり、家の補修に収穫した麦を粉にしたりと色々やっていた。
とにかくそうやって厳しい冬をみんな乗り切った。
*****
新年を迎えるとそろそろ春だ。と言ってもいつ新年を迎えたのかはわからない。
父ちゃんの月読みでだいたい新年を迎えたと判断して厳かに新年を祝った。
雪が溶けてくると村長の息子が村の会合の予定を伝えにやってきた。
年に何回かある会合では村の課題を話し合ったり、そして種まきの話をしたり、家の建築や全面修復の時は村人で力を合わせて行わなければならないので、そう言ったことも話合われる。
そして、新年の会合では成人の儀式の日程も決めなければならない。
父ちゃんが会合から帰って来ると第一声は成人の儀式の話だった。
「成人の儀式は5日後に決まったぞ。助司祭様も春は忙しいそうだ。最短でその日になったから準備をしておけよ。」
家族には今回成人するものはいないが、成人の儀式は村人の多くが参加する。村人皆で成人になった子を祝福するため、そしてこれからは成人だということを皆で認知するためでもある。
「エレナも成人だね。盛大に祝福してあげないと」
気になっちゃうんだよね。エレナの事。
「そういやそうだな!って事は結婚も近いなっ。俺がもらってやってもいいぞ」
4つ上のトマス兄が言う。
なぜそんなに偉そうに上から目線で言えるのかわからないが、コイツには絶対に渡したくないとおもった。
「お前、養えるのかよ。カイトもいるし嫁をもらうなら独り立ちしろよ」
長男のケントからツッコミが入るとトマスはへへへっと愛想笑いしていた。
絶対こいつには渡さないぞっ!
そして成人の儀式の日。
エレナは新調してもらった色鮮やかな麻の服を来て現れた。
いつもはニコニコして笑顔が絶えない女の子なんだけどこの日はちょっと緊張してたみたい。
同じく今年成人する男の子が1人いたが今日はエレナの日だった。
惚れちゃったよな。僕は確実に。
*****
バーン村は輪作農法だ。大麦、ライ麦、野菜、休閑地(放牧地)をぐるぐる回す。
肥料という概念がなく、あえていうなら放牧をした際の豚や羊がばら撒く糞が肥料になる。
昨年、麦の発育があまり良くなかったと聞いたので、日本の知識で家の裏の便所の糞を撒いたらどうかと父ちゃんに行ったところ、
「俺たちの糞!?!そんな臭いもん使えるか!麦が腐るわ。」
と怒られた。
試しにお前やってみろと言われても困るのでそれ以上言うのをやめた。
日本の高校生の浅い知識なんて何の役にも立たんな。
輪作は結構手間だった。豚の飼育小屋を移築して柵も移築しないといけないから。
兄達と一緒に毎日駆り出されてやっと落ち着いたと思ったら、今度は広い農場を耕さなければならない。全部自分達の力でやらなければならない。
道具もろくなのがないので結構な時間がかかる。
種まきの時期までにやっとの思いで耕作を終えた。
種まきは楽しかった。
この時期は至る所で花が咲きほこり、新しい命の息吹を感じる。まだ山から吹きおろす風は冷たいが雪を深く被った山々と花と緑がとんでもない美しさを醸し出す。
「絶景だな・・・。」
この時ばかりはこの村に住んでて良かったと感じる。
種まきが終わると、いつもの役割の日課が始まる。
朝は小川でしょんべん。も、するんだけど、洗い物。母ちゃんからバトンタッチだ。
その前に、誰もいないので裸になって雪解け水で超冷たいと思われる川にダイブだ。
重労働が続いて、泥と汗まみれになっても雑巾で体を拭くぐらいで、体を洗う機会がなかったからね。
冷たくても心を滅却すれば火もまた涼しいのだ!と言い聞かせたが流石に冷たい。長い間は無理だ。凍死してしまう。
ささっと体を雑巾で拭いて川から出よう。と、その時、
「カイト君??」
声がする方を見るとそこにエレナが立っていた。
やばっ!
僕のあそこが丸出しなんですけどーー。
心では慌てるが、ここで慌てたらのび○くんになってしまう。堂々としなければならない。
「やあ。」
僕はそのまま涼しい顔をして川辺に上がる。そして堂々と体を拭き。。
「こんなに冷たい水で泳いでたの?」
エレナは僕の逸物の事には触れず、水に浸かっていた事を不思議そうに訊ねてくる。
僕はそれには答えず堂々と体を拭いてパンツを履いた。
「エレナも一緒に泳ぐかい?」
「つ、冷たくない?」
「冷たいけどエレナと一緒なら暖かいかもね」
よくわからない事を言う。
「じゃあ一緒に入る」
「えっ?」
エレナが服を脱ぎ始めた。
おいおいおいおい。
それはまずいっしょ。
見たいけど。ここ洗濯場だし。
僕は服を脱ぎかけたエレナに近寄り口づけをする。パンツ一丁で。
日本人の学(まなぶ)の時には考えられない行動だが、カイトな自分が前に出たのかもしれない。
エレナはすんなり受け入れた。
「やっぱり冷たいから川に入るのはやめよう。・・・でもキスはしたいな。」
2度目のキスは少し長くかった。
しかし誰かが来るかもしれない。そのままエレナの服を脱がしたい欲望を抑えて洗い物に戻るのであった。
*****
ドーテーを捨てたい。エレナちゃんと×○したい。
そういう欲望がじわりじわりと押し寄せてくるが、日課に追われる日々でチャンスがなく格好をつけてもヘタレな僕はこの後も洗濯場でちょっとイチャつくだけであった。
4月には第一の使徒アーノルドの誕生祭があった。
その時は教会で誕生を祝ったあと簡単な村の広場で食事会があったのだが・・・やっぱりチャンスはなかった。
イチャつくだけでも僕の心は純粋に「春」だった。
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