第8話 神の奇跡

次のミサの日、また助司祭様を訪ねた。

エリナちゃんも同行している。エリナちゃん曰く「私にも責任がある」とのことだ。

はっきり言ってめちゃんこ嬉しい。


「助司祭様にまた質問があるのです」


「カイト君だったね。神の事を学ぶ姿勢。とても素晴らしい心がけです。

さて今日はどんな事を聞きたいのでしょう。」


まだ二十代の前半の助司祭はやわらかな笑顔とやわらかな声で応えてくれる。


「僕は魔法を使えるようになりたいんです!!どうしたら良いですか?」


僕が魔法について単刀直入に聞いてみると、助司祭様はとても驚いた顔をした後、次に難しい顔をする。


「とても難しい質問ですね。

魔法は努力したからといって使えるようになるものではありません。神の御心によって授けられる物なのです。

ですので、どのようにしたら魔法を使えるようになるのかは私には答えることが出来ないのです。

強いて言うなら神に祈りを捧げることが唯一の道でしょうか。。」


神に祈りを捧げる・・。日本人浅井学の記憶がない無知なカイトであれば、それを聞いて信心深く祈り続けただろう。いや祈らないかもしれないけど・・。


しかし浅井学は考えが深いのだ。そんな言葉に誤魔化されないのだ。

助司祭のありきたりの神だのみに納得できる今のカイトではない。


エリナも同じように誤魔化し助司祭め!!と思ったのだろうか?

助司祭の説明に納得できないようで、先に口を開く。


「でも、魔法を使える者は神様の使徒として聖職者への道が開かれると聞きました。では誰が魔法が使えるのか、どうやってわかるのでしょう?」


エリナちゃんはさすが鋭い!!俺はエリナ師匠に心の中で拍手を送る。

俺もエリナちゃんを支援しないといけないね。


「魔法はルーンと言う文字を刻んだ宝石がないと使えないと聞きました。誰もがそんな高価な物を持つはずがありません。

であれば、教会はどうやって魔法が使える人を探し出すのですか?」


言ってやったぞ。エリナちゃんも僕の博識に驚いてくれるだろうか?


「・・・・・・・」

助司祭様は僕たちの鋭い質問に返事も出来ないでいる(と勝手に想像)


「助司祭様も魔法の発現者なのですよね? 僕に助司祭様の魔法具でチャンスをもらえませんか?」


「カイト君は本当に勉強熱心だねぇ・・・・。

君の言う通り、魔法にはルーン文字と言う魔法の原理を司る文字を使う必要がある。そのルーン文字は数多くあり文字毎に適正が存在する。適性がない者はその文字を使うことができない。」


助司祭様が口を開き出すと、魔法についての説明が始まった。


「魔法が使えるかどうかを調べるのはとても難しいんだよ。」


フー・・。と息を吐き話を続ける。


「一番簡単な魔法でもルーン文字を複数組み合わせて発現させる必要があるのだけど、一文字でも適正がなければ発現しない。

要するに魔法適正を調べるには数多くの高価な魔術具が必要になるんだよ。」


なんだか無理っぽい話になってきた?? 


「教会では魔法の適正を調べる事をしているが、それは大きな司教区だけなんだ。

だから君の願いに応えることは私には出来ない。すまないね」


絶望感がカイトを襲った。


「そして君のもう一つの質問だが・・・・。私は魔法は使えない。」


「エッ!?」


エレナが驚いた声をあげる。


「で、でも。神様の使徒たる魔法発現者が聖職者になるのではなかったですか?。。」


「魔法が使える者は本当に一握りなんだよ。聖職者全員が魔法を使えなければならないならば、この村に聖職者がくる事は無くなります。聖職者の6割、修道士を入れれば9割を超える者が魔法を使えません。

魔法の使えない聖職者の多くは、聖職者の子息か貴族の子息となります。


私の父はこのローキング領のタングスト伯です。私は父の命令で14の時に魔法適正を調べましたが適正は0でした。

魔法が使えない三男など価値はありせんからね。私自身敬虔な信徒でしたし平民に落ちるよりはと修道院に入りました。


私の経験上、魔法を使えるというのは本当に神の奇跡です。

その僅かな奇跡を確認するためにここに貴重な魔道具を持ってくるわけにはいかないのです。」


助司祭はやわらかい口調でそう言った。


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