第6話 花火


これまでのあらすじを説明しよう。



夏祭りに夏花がついてきたら夏花がガラの悪そうな男に絡まれて救ったら焼きそばがグチャグチャになった。




以上だ。




仕方なくグチャグチャの焼きそばを食べたわけだが普通に食べられてたらもっと美味かったと思う。知らんけど。




グチャグチャでも美味かったので良しとする。





そして意外なのが、先ほどのあらすじの間でまだ2時間しか経っていないことだ。そのうち半分は焼きそば探しである。なんでや。







花火まではまだ少し時間がある。だが、なんだか屋台巡りに戻る気になれない俺はその場を動こうとはしなかった。




どうやら夏花も同じようだ。





しばらく、沈黙の時間が流れた。



この無言の時間というのも、案外悪くない。






「いや~、それにしてもさっきの春斗かっこよかったねぇ」





夏花が沈黙を破った。





「そんなにか?」





「うん。まるであの日みたいに…ね」






「あの日?」






「春斗が私に初めて声かけてくれたあの日だよ」






「あぁ、あの日か。 確か…小2とかだったか?」



「何年かは覚えてないけどそのくらいじゃない?」








あの日。あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。





―――――


あの頃の俺は、実年齢よりももっとガキっぽかったと思う。





毎日友達と集まっては遊び…を繰り返していた。




そんな日々の中、突然現れたのだ。





俺たちがいつも遊んでいた公園に、泣いている少女が。






でも、周りの子たちはその子を見てもなんの反応も示さなかった。






俺はあの子をかわいそうだと思った。





ガキ特有の誰にでも堂々と接する陽キャ精神だ。俺はその子に声をかけた。





「なにしてんだよ?」





その子は俺の声に反応して顔を上げた。




でも、泣きじゃくっていてなにを言いたいのかもわからない。




俺は半ば強引にその子の手を取り



「俺たちと一緒に遊ぼうぜ!」




なんて無邪気に笑いかけた。それが夏花との出会いだった。







―――――


あれから家がとんでもなく近いことが判明し、そのまま今の状態に至ってしまった。







「いやぁ…懐かしいねぇ」






「あの頃のお前めっちゃ泣き虫だったよな~」




「なっ…!?そんなことないし!」






「いや、お前初めて会ったときすら泣いてただろ」








「そんな…こと…」





だんだん反論が弱くなってきた。きっと少しは自覚があるのだろう。





「そんな…うう…ああ~もう!」








「ハハハハッ!」





反論したくてもできずに悶えるさまがあまりにも可笑しくて、つい笑ってしまう。






それからも俺たちは思い出話などの他愛もない話をしながら、花火が上がるその時を待っていた。









――――――



やがて話すことも無くなってきて、再び無言の時間が流れた。






そんな中、ふいにヒュウウウウウという音が聞こえてきた。





そして爆発音とともに花火が夜空に咲き誇った。






ここで見る花火は、なぜだかとても幻想的だった。





思えば、最近花火を見ていなかったような気がする。時が経つと感覚も変わるものなのだろうか。








「綺麗だな…」





独り言のように言葉が漏れた。






「…?」




そんなとき、ふと肩に重みを感じた。






何事かと思い肩のあたりを見てみると、そこに頭を乗せて眠っている夏花の姿があった。



どうやら、先ほどの無言の時間の間に寝てしまったようだ。



「待ち疲れて寝ちまったのかよ…こんな綺麗な花火、見れないなんてもったいねぇな」







最後にひときわ大きな花火が上がった。






周りの観衆が散らばっていく中、俺は花火の余韻に浸っていた…というか、そうするしかなかった。





「おーい?夏花?花火終わっちまったぞ?」




ダメだこれ。マジで起きない。このままじゃ俺が動けないんだが…






すでに人の数は数えるほどしかいなくなっており、このままとどまり続けるのもなんだか居たたまれなくて、俺は仕方ないので夏花を運ぶことにした。





「ったく…手間かけさせやがって…」






――――――




「んぅ…」




無事自宅に着いてしまったあと、ようやく夏花が目を覚ました。




「やっと起きたか…」





「んぇ?春斗…?花火は…?」




「とっくに終わったぞ。何時だと思ってるんだ?」






こうして俺の夏休み、夏祭り編が終わりを告げたのである。

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