第5話 恋の理由


あれは私が小学生の頃。






あの頃の私は、今と違って友達というものがいた。





しかし私は、どこかで何かを間違えたらしい。







ある日、そのときの友達に言われた。




「あのね、夏花ちゃん。私ね、夏花ちゃんが仲良くしてくれるのは嬉しいの。」





いきなり何を言い出すのかと思った。その次に告げられた言葉が…





「でもね、えーと…なんて言ったらいいのかな…?なんか、こう…しつこい…って感じがしちゃうんだよね」







彼女の言葉に悪意は無かったのだろう。しかし、その言葉は私の心を抉った。その痛みは想像以上だった。






その日から私は、あの子と関わるのを止めた。






それどころか、人と親しくすることを止めるようになった。







また、あんなことは言われたくないから。






しかし、小学生というのは想像以上に幼いもので、親しくできる人間がいないと言うのは、ものすごく辛かった。






周りはみんな友達で集団を作っているのに、私は一人ぼっちだった。






そしてそれもまた、私の心には堪えた。








ある日の帰り道のことだ。






私はその日も一人ぼっちだった。






どうしようもなく寂しくて、誰かを頼りたくなった。もちろん、家に帰れば家族がいる。だが、私が欲しいのは、他愛ない話で笑い合える同年代の子だった。






しかし、ここにはそんな人はいない。公園を通りかかるときにふとそちらに目線を向けると、楽しそうに遊ぶ子たちが私の目に飛び込んできた。






気づけばその公園に足を踏み入れていた。私の目はその子達に釘付けだった。






しばらくすると、その子達はじゃんけんを始めた。





そして、負けた1人の子を残して、それぞれが散らばっていった。かくれんぼでも始めたのだろう。






もうあの子達を見始めて1時間くらい経っただろうか。私の心は疎外感に包まれていった。







周りの子達は、私のことは見て見ぬふりをしているようだ。それも当然か。ずっと自分達のこと見てる人なんて気持ち悪いもんね。







そうして、私の目は再び彼らの観察に戻った。






気がつけば、勝手に涙が出てきていた。





辛い、怖い。







誰か助けて――――





なんて、身勝手が過ぎる願いが私の心に芽生えた。





私は自ら周りとの縁を切ってしまった。もう後戻りはできない。



もう誰も、私を見てはくれない―――






「なにしてんだよ?」




突然、私の頭に、そんな声が降ってきた。





見上げると、そこには彼の顔があったのだ。





あの日、私を救ってくれたのは―――













「なにしてんだよ?」






私の手を凄まじい力で掴んできた手を払いのけた、その手の主… 天野春斗。





 

そのまま春斗は相手を睨み付けている。







「ッ…!なんだテメー…」





別の男が口を開く。




「おいおい、なに勘違いしてるのか知らないが、そこの女が先にぶつかってきたのが悪いんだぜ?」






「そうやっていちゃもんつけたいだけなら他所でやれよ。」





その口調から春斗の怒りが伝わってくる。






「は?お前年上に対する敬意とかもないのか?ガキが」




なんか論点がずれた気がする。まあ口を挟むことじゃないか。





「少なくともアンタらみたいな奴に払う敬意はねーよ。クソガキで悪かったな。」





「んだと…」





相手が殺気立ち、今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。






「ちょっとそこ!何やってるの!?」



そこに警備員らしき人物が割り込んできた。誰かが通報したのだろう。




「あー警備員さん、そこの子供たちがですね…」




春斗が説明を始めるより先に、相手の男が口を開いた。





このままだとまずい。結構ヤバイことになる。




そう思った矢先、私の手は彼によって引かれていた。







「子供たち…?ここにはいないようだが…」





「え?確かにそこに…」





後ろにそんな会話を聞きながら私たちは走った。





―――――




「はー危なかった…なんとか撒けたな」





周りの人もまばらになってきたところで春斗が立ち止まって言った。






「あの…ごめん」




私の中では春斗に謝らなければ、という気持ちしかなかった。勝手に付いてきたのに迷惑をかけるなんてとんでもない。





「いや…別に…今回は祭りっていうものの都合上仕方ないところもあるし…それに目を離した俺も悪かった。すまん。」







「いやいや、春斗が謝ることじゃないよ。迷惑かけたのは私の方なんだし…」







「いや…お前も怖い思いとか、しただろ…」






こういう気遣いができる優しさ。これが春斗の良いところだ。






しかしこうしていては埒が明かない。





「…お気遣いどうも…ってことで、暗い話は終わりにしよっか」






「そうだな」






そこで春斗はふと何かを思い出したように、



「あ。」


とつぶやいた。





「どうしたの?」





「焼きそば…」





「あ…」




どうやら2個買っていたらしい焼きそばは、2つ揃ってパックの中でグチャグチャになっていた。まあ激走したんだししょうがない。





「悪い…崩れちまった」






その崩れた焼きそばと深刻な春斗の表情があまりにもミスマッチで、どうしても笑いたくなってしまう。





「あはははは!」





ついにこらえきれず、私は笑いだした。




「なっ…!なんで笑うんだよ!?」





「いや~、カッコつかないなと思って…あははは!」





「うるせー!カッコつけたつもりねーよ!」







「どんなにカッコいいところ見せても最後が台無しだとモテないんだよー」





まあ、春斗がモテても私が困るんだけどね。






そんなこんなで私たちは2人並んでグチャグチャの焼きそばを食べた。

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