第3話 夏の定番行事
夏花が居候を始めてから2ヶ月が過ぎ、暑さも増してきた。
もしかしたら暑い原因の半分はこいつにあるのかもしれないが。
そんな中、夏休みが始まった。
夏休み。常に夏花が俺の周りにいるような状況で気が休まらない。どこに行くにもついてくるし。
さて、せっかくの夏休みなので夏休みらしいことをしたい。
それこそ、クラスで海に行ったり、友達と花火を見に行ったり…
…ということは俺にはできない。
しかし俺はどうしてもそういったものへの憧れが捨てられなかった。
仕方ないからぼっちで(夏花も付いてくるとは思うが)夏祭りにでも行くか。
夏祭りは日程が決まっている。それは…
今週末だ。ちょうどいい。
面倒なことに宿題も出されたので(当たり前)、終わらせながら待つか。
――――――
そして1週間後、見事に宿題を終わらせた俺は暇になっていた。
そして、満を持して夏祭りに行こうと思ったのだが―――
「…なんで浴衣着てんの?」
「今日夏祭りあるじゃん。春斗行くかな~と思って」
なんで読まれてんだよ。怖いなこいつ。
まあ付いてくるのは想定内だったので特に何も言わないことにする。
そして俺は適当に夏祭りに向かおうかと思ったのだが―――
誤算だったのが、こいつが何故か俺の分の浴衣を用意していたことだ。
普段着で行くつもりだったのだが、用意されてしまった以上、着るしかない。
「わぁ~すごい!超似合ってるじゃん!」
「お前が選んだんだから似合うものにしかなってないだろ…」
「いやいや、想像以上だよ!」
多分どんなの着てもこんな感じに過大評価してたんだろうなぁとは思いつつも、褒められることは素直に嬉しい。多分何であってもそうだろう。
…そうしてると、俺がまだ夏花の浴衣姿を評価していなかったことに気づく。
しかし俺は気づかないふりをすることにした。だが、それは当然悪手で…
「ところでまだ聞いてなかったけど私の浴衣、どう?」
夏花がそれに気づかないはずがなかった。
しまった、と思ったがもう遅い。こんなことなら適当に一言ぐらい言って流した方がよかっただろう。
俺は知っている。こういう聞かれているときは過大評価が求められているのだと。母親がそうだったから知っているのだ。
しかしこうして見ると、やはり容姿端麗、性格的にも高嶺の花という言葉が似合うな…束縛さえなければ。
というわけで改めて夏花の浴衣を観察してみることにする。
ピンクを基調としてオレンジ、黄色などのいわゆる暖色系の花柄がついている。ベタと言われればベタかもしれないが、俺はファッションには疎いほうなのでよくわからん。
夏花が目をキラキラさせて上目遣いでこちらを見てくる。やめろ、そんな期待を込めた眼差しで俺を見るな。もっと褒めるハードルが上がる。
そうした末、俺の口から出てきた言葉が、
「に、似合ってる…可愛いと思うぞ?」
なんとも平凡で、しかもベタな褒め言葉だった。
ていうかこれ言うだけで結構恥ずい。世の中のキラキラした奴らはこんなこと平気で言えるんだから凄いよな…
「…?夏花?」
反応が無いのが気になって夏花の方を見ると、夏花はうつむいてぷるぷる震えていた。顔も赤い。
「…言い出したのお前だろ」
「い、いやだって、春斗が素直に褒めてくれるとは思わなくて…」
どういうことだそれは。
いや、まあそういえば俺はこういう話はことごとく適当に流してたな…
そうこうしているうちに日が落ちてきた。
「ほ、ほら、もう行くぞ」
しかし夏花は一向に動き出す気配がない。
「仕方ない…」
俺は夏花の手を掴んでそのまま連れていくことにした。
「ふぇっ!?」
意表を突かれたのか、夏花がどこか間の抜けた悲鳴のような声をあげた。まあ、怖がっている悲鳴ではないと思うので気にしないで行こう。
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