第21話 学校の外では……、
キ~ン、コ~ン、カ~ン……コ~ン……!
暗稜高校の校舎から響くチャイムの音を、学校の敷地外から聞いている人間がいた。
「ここ、だったよなぁ? ユリス」
スカジャンを着た赤い髪の男が校舎を見つめていた。
「そう……だったかなぁ? 覚えてないや☆」
昨晩、湖の畔で魔法を放った獣耳の少女を彼は侍らせていた。少女は昨日とはいでたちが違い、現代日本に溶け込んでも違和感のないキャミソールに短パンという普通の格好をしていた。だが、流石に獣の耳を露出するわけにはいかないので、頭にはキャップ帽をかぶっている。
ガンッ!
そんなどこからどう見ても普通の小学生にしか見えない獣耳の少女に対してスカジャンの男は容赦なく暴力を振るう。
「ちゃんと覚えてろよ! ウッゼェなぁ~~~‼」
コンクリートの電柱に頭を叩きつけぐりぐりと押し付ける。
そんなひどい扱いを受けていると言うのに、相も変わらず嬉しそうな笑みを浮かべて獣耳の少女は「キャッ」と声を漏らす。
「昨日!
「そ、そうだったかなぁ? ユリスちゃん覚えてないなぁ……? だってこの世界の服装何て全部おんなじに見えるし……ギッ⁉」
ゴリゴリゴリ……!
「ちゃんと覚えておけやぁ! クソメスがぁ!」
恐ろしいほどの力で硬いコンクリートに獣耳の少女の頭をこすりつけていく。
少女の頭には血が上り、今にも割れんばかりという有様であったが、
「ちょ、ちょっと君! 何してんの⁉」
そんな彼らに声をかける者たちが現れる。
警察だ。
近頃は物騒だからと学校周りを巡回している男性警察官の二人組が、幼い子供に対して蛮行を働く男の姿を見過ごせず、声をかけてきたのだ。
「あんたそんな小さな女の子に対して何てこと……」
走り寄ってきた二人の警官。
彼らはスカジャンの男の顔を見てハッと息を飲んだ。
「お前……! 指名手配されていた
「あぁ?」
二人の警官は警棒を取り出し、戦闘態勢をとる。
が———、片方の警官は顔を凍らせ、
「先輩……今、指名手配されていたって言いましたよね? 過去形で言いましたよね?」
「ああ……!」
いや、両方とも顔を凍らせ冷や汗を垂らしている。
「噂で聞いたんすけど……豪來って捕まえようと追いかけている間に、渋谷の駅で電車に轢かれて死んだって聞いたんですけど……! 原型もないぐらいに酷いありさまだったから……! 確実に死んだって噂を……!」
「あぁ! だから指名手配のリストから削除された……!」
「じゃあ、あいつは何なんですか⁉」
「知らん……! そっくりさんか……あるいは何らかのトリックを使って生き残っていた豪來本人か……」
「本人だよ。何もトリックは使ってねぇけどな」
つまらなそうにスカジャンの男が頭を掻く。
「俺ゃあ死んだよ。そして生き返った。信じらんねぇだろうが」
スカジャンの男、豪來が警官たちに一歩近づいた。
「動くな! 貴様ぁ‼」
二人の警官が警棒を振りかざし、豪來へ向けて飛び掛かる。
「ハァ……人には動くなとか言っておきながら、自分は動くんか? ユリス」
呆れながら、獣耳の少女———ユリスの名を呼ぶ。
「———あいご主人たま」
ユリスは応える。
二人の警官の背後から———大斧を振りかぶった状態で。
「消せ」
その一言と同時に———大斧は二人の警官を両断した。
二人の警官は何が起こったかわからないと言った表情を貼り付けながら、上半身だけの肉体を地面に落としていく。
ユリスはゴミを見るような目で見つめ、
「
ぽつりと唱えた。
すると二人の切り裂かれた警官の身体がいきなり細かい粒になり弾け飛んだ。
「悪ぃな。説明すんの面倒くさかったから殺させてもらったよ。でもいいだろ———?」
分子の粒にまで弾け飛んだ警察官の身体は再び集合していく。
「———蘇るんだからよ」
一旦、砂のようになるまでバラバラになった二人の警察官の肉体———それが再構築されてまた元に戻る。
「あれ……俺達は一体何を?」
「さ、さぁ……」
動き出す。
先ほど、ユリスに切られた断面など存在しない五体満足の状態だ。
彼らは豪來に背中を向けて再生させられ、そのまま首を傾げながら歩き去っていく。
どんどん距離ができていく警察官二人の背中を見つめながら、
「記憶だけ消させてもらったよ。そして、再構築させてもらった……あぁ、俺の指名手配も後で〝書き換えて〟おかなきゃな。戦争が終わる間までとはいえ、いちいち呼び止められんのは面倒くさい」
そうつぶやき、頭を掻き、豪來は暗稜高校の校舎を見上げた。
「この転生戦争が終わるまでの間だけど———な」
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