第14話 後野三蔵の過去に何があったか
朝になるとぱちりと目が醒めた。
新築の家の匂い。
この街に戻ってきた時に建てたばかりなので、その独特の匂いが鼻につく。
体を起こす。
———昨日何かあったような気がするけど……なんだった、
「ぐっどもーにんぐでござます。ご主人」
シャっとカーテンが引かれて、朝日が俺の顔を照らす。
「とぅでいいず、びゅーてぃふるでいでございまうよ。ご主人」
「あぁ……」
———あぁ。何かあってたわ。
「ご主人。朝食ができていますので。顔を洗ってきてください」
「あぁ……」
銀髪の少女が当たり前のようにエプロンを身に着け、俺の部屋を歩き回っている。服も昨夜のものとは違い、普通のシャツとスカートを履いている。
それ、ウチの母親のやつだよね?
「あの……さ」
「はい?」
「君は異世界人なんだよね?」
改めて尋ねる。
「はい。コレはこことは違う世界で生まれた機械生命体———WR―16・クウでございます」
昨日と全く変わらない自己紹介をして、クウは一礼した。
◆
それは、朝飯を食べながら聞くには重たい話だった。
「コレの元もといた世界ではご主人のような完全なる肉の身体を持つ人間はおらず、コレのような機械の身体を持つ機械生命体が〝人類〟として文明を築いている世界です。そんな我々の世界ですがたくさんの王と国があり、常に争っていました。そんな時、ご主人が天より現れたのです。コレの国には古来より『乱世を天よりの救世主が治めるであろう』との予言があり、ご主人を救世主様としてコレは付き従い、国を統一し世界を平和に導いたのです。そして世界を平和にしたご主人はこちらの元の世界に帰っていきました」
「そうなんだ」
僕はズズズッと、彼女が用意してくれていた汁をすすった。
白ご飯となめこ汁をすすりながら聞くような話ではなかった。
ながら、ではとても聞けるような話じゃない。
情報量が多い上に信じられない話ばかりで、頭に全然入って来なかった。
本当に怪しい。
僕が異世界にいた?
そこで戦争に参加して国を統一した?
とても信じられないが、昨日彼女が起こした現象が、今の言葉を否定できなくしていた。
彼女は突然現れ、手を変形させてガトリング銃にして、それをぶっ放して人を……殺した。
あそこにいた何人かの不良生徒を殺してしまった。
あの後、僕たちはパニック状態だった。
冷静で的確な行動何てできない。何しろ僕は普通の人間なんだから。
とりあえず、下着姿だった向日葵を着替えさせ———彼女の服はその場に脱ぎ捨ててあったのでなんとかなった———、茫然自失状態にあった氷雨と荼毘にただひたすら「帰れ」と言ってその場から立去らせ、この僕のことをご主人と慕い、どこか見覚えのある顔をしたクウという異世界人を連れて家に帰った。
幸運なことに僕の家には両親がまだ仕事の都合で帰ってこないので、見知らぬ女の子を連れ込んでも何も言われない。
とりあえず、全部とりあえずの行動だ。
朝。起きた時に波風が立たないように。僕にその疑いの矛先が向けられないように。混乱した頭でとりあえず取り繕う時間を、あの後過ごした。
朝。起きたら何事もなく、全部が夢だったとなるように祈りながら眠りについた。
「———どういたしましたか? ご主人。コレの顔などジッとご覧になって」
夢じゃなかった。
現実離れした現実がある。
それを受け入れなければいけない。
「あの……クウ」
「なんでございますか?」
「とりあえず、その変な敬語やめない? 凄くこちらとしては話しづらいから?」
「…………」
「クウ?」
彼女は、僕が敬語をやめるように言った途端、ものすご~く嬉しそうな笑みを浮かべた。
「わかったよ。ご主人」
「————ッ」
何だろう……ただ、笑って僕の言う通りに敬語をやめただけなのに、滅茶苦茶ドキッとした。
彼女も同じように、嬉しくなっていたのだろうか。くすくすと含み笑いをしていた。
「何? クウ、何かおかしい事でもあった……?」
「いいえ。ただ、ご主人がコレと初めて会った時も同じことを言われましたから……懐かしくなって……」
本当に、嬉しそうに笑っていた。
「申し訳ないけど、その時の記憶は僕にはないんだよね……僕が既に異世界に言っていたなんて信じられないし、僕は生まれてきてから死んだ覚えも……」
いや、ない……か?
死にかけたことなら、一度ぐらいあるはずだ……。
「クウ。昨日の夜、僕と出会った時に君は何て言っていたっけ? 何日ぶりって言っていたっけ?」
「1034日ぶりでございます」
「千日……」
一日一日をしっかりと数えているのはストーカーチックなものを感じるが……一年って365日だから……。
「約三年前……三年足らず……」
三年前……僕が中学一年生で、義経と事故にあった……。
クウを見る。
「はい。ご主人が私の元から去って三年もの時が経過しています」
「あの事故の時、僕はただ頭を打っただけで、一日寝ていただけでピンピンしていたはずで……」
もしかして———、
「いえ、ご主人はこちらの世界の三年前。車に轢かれて頭を強く打ち、即死しております」
———僕は一度、
「そして、
———死んでいる。
「嘘……だろ?」
嘘なわけがない。
「嘘だと思いますか?」
何故なら、こうして目の前に
「でも、恩賞? その言い方だと誰かが僕をこの世界に戻してくれたみたいだけど、一体誰が?」
「
「ドミネーター?」
「はい。世界によっては、〝神〟と呼ぶものもいます」
神。
クウからその言葉を聞いた時、僕の頭の中にはバスで出会ったお姉さんの顔が頭に思い浮かんでいた。
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