第9話 魔物討伐

「旅の方ですか?」

そう聞かれて頷くと彼は事情を説明してくれた──何でもこの街の付近に魔物が出没するようになって困っているという。しかもその数は日に日に多くなっており、このままでは街にまで被害が出る恐れがあるようだ。

(なるほど……それで討伐隊を送り込むことになったのか)

そう納得していると兵士の男性はオレに向かって言った。「申し訳ないのだが、あなたも協力してもらえないだろうか?」

(協力?)首を傾げるオレに彼は続ける。「魔物を討伐するために我々と共に来て欲しいのだ」

(それってつまり……オレも戦うってこと?)不安そうな表情を浮かべるオレに彼は優しく微笑みながら言った。「大丈夫だ、君一人で戦わせるつもりはないよ……他にも大勢の兵士達が同行するからね」と言う──ならば安心かもしれないと思い、オレは承諾することにした。

そして翌日──オレは兵士達と共に魔物退治に向かうことになった。道中では様々な話をしたが、彼らの話はどれも興味深いものばかりだった。例えば彼らが所属している部隊の隊長である女性は元々は別の国の騎士団に所属していたらしいのだが、ある日を境に退役してこの部隊に入隊したのだという──その理由については語らなかったので気にはなったが、あまり深く詮索しない方がいいと思いあえて触れないことにしておいた。

そして数日後──遂に目的地に到着したようだ……そこは深い森の中にある小さな村であった。

「ここが魔物が出没する地域です……」と一人の兵士が教えてくれる──それを聞いて緊張が走る中、オレは決意を固めていた。

(絶対に勝つぞ……そして村を守るんだ!!)そう心に誓いながらも森の中へと足を踏み入れることにしたのだった・・・。

それから数時間が過ぎた時のことだろうか──突然、周囲の空気が重くなったような気がした。それと同時に遠くから何かが近付いてくる音が聞こえてきたので身構えていると現れたのは巨大なトカゲのような怪物であった!兵士達が一斉に攻撃を仕掛けるが硬い鱗に覆われた身体には全く歯が立たず苦戦を強いられてしまう。

(どうすればいいんだ……?)オレが戸惑っていると隊長である女性が叫んだ。「危ない!!」その言葉に反応するように振り返ると、今まさに魔物が襲い掛かろうとしていた──咄嵯の判断でオレは魔法を放つ!すると凄まじい炎が魔物を包み込み一気に燃え上がった!! しかしそれでも致命傷には至らなかったらしく、炎の中から飛び出してきた魔物はオレに襲い掛かってきた!! 咄嵯に身をかわすもののバランスを崩してしまい転倒してしまう・・・(もうダメだ……!!)そう思い目を瞑った瞬間だった──オレの目の前に一人の女性が飛び込んできたのだ!彼女はオレを守るように覆い被さると剣で魔物の爪を受け止めた。そして次の瞬間、凄まじい金属音と共に火花が散ったかと思うと剣が砕けてしまった!!

「逃げて!!」彼女が叫ぶと同時にオレは彼女を突き飛ばすとその場から逃げ出した。だが完全には逃げきれずに左腕を切り裂かれてしまい傷口からは血が流れ出していた……意識が朦朧としてくる中、どうにか魔女さんの家に辿り着いたオレはベッドに倒れ込むようにして眠りについた・・・。

次に目が覚めた時、オレはベッドの上にいた──一瞬状況を理解することができなかったがすぐに思い出すことができた。

(そうだ……あの時、魔物に襲われて・・・それで、どうなったんだっけ……?)

思い出してみる──確か兵士の人達と協力して魔物を倒したはずだと記憶している・・・。その後はどうなったのだろうかと考えているとドアが開き魔女さんが入ってきた。

「目が覚めたみたいね・・・良かったわ」そう言って安堵の表情を浮かべる彼女だったがオレが目を覚ましていることに気付くなり慌てて駆け寄ってきた。そしてオレの左腕を見て顔を歪める──そこには包帯が巻かれていて血が滲んでいた。

「ごめんなさい……あなたを守れなかったわ」そう言って謝る彼女にオレは首を横に振った後、聞いてみた。「あの・・・あれからどうなったんですか?」そう尋ねると彼女は教えてくれた──どうやらあの魔物を倒したのはオレらしいのだ。魔女さんに言われて傷を治した後、オレは兵士達と共に魔物の巣窟へと向かったらしい──そこで再び戦闘になったのだが今度はオレが一人で戦うことになってしまったのだという・・・。

その結果がこの怪我というわけだ・・・。(そうか・・・やっぱりあれは夢じゃなかったんだな)そう思っているうちに涙が溢れてきた。それを見た魔女さんは慌てて涙を拭ってくれるがそれでも涙は止まらなかった・・・。

「ごめんなさい・・・私がいながらこんなことになってしまって・・・」そう言う彼女に対してオレは首を横に振って答える──確かに怖かったけど、それよりも自分が何もできなかったことが悔しかったのだ!それにオレが戦わなければ他の人達が犠牲になっていたかもしれない・・・そう考えると自分の選択に後悔はなかったと思うことができた。

だから今は前を向いて進むしかないのだと自分に言い聞かせると気持ちを切り替えることができた──いつまでも落ち込んでいては何も始まらないのだから!! それから数日が過ぎた頃、オレは左腕に違和感を覚えるようになった。最初は気のせいかと思っていたが日を追うごとに痛みが増していき、やがて日常生活にも支障が出るほどになっていたのだ──そしてある日のこと、仕事を終えて家に帰る途中のことだった・・・突然激しい痛みが左腕に走ったかと思うとオレの左腕は一気に成長を始めた! まるで植物のように伸びていく腕に恐怖を感じたもののどうすることもできなかった・・・。

(どうしよう……このままじゃ大変なことになっちゃうよ!!)心の中で叫ぶ──だが現実は何も変わらなかった。むしろ悪化しているように思えた。(どうすればいいんだ!?)必死になって考えるが何も思いつかない・・・そんな中、ふと魔女さんの顔が思い浮かんだ──彼女なら何とかしてくれるかもしれないと思い、急いで家に帰ることにした。

家に着いた後、オレはすぐに魔女さんに会いに行った。事情を話すと彼女は驚いたような表情を浮かべていたがすぐに真剣な表情になりオレを診察してくれた──その結果分かったことはオレの左腕が魔物の細胞に取り込まれたということだった。

「このままだとあなたは魔物と同じ存在になってしまうわ……」それを聞いて青ざめてしまうオレに対して彼女は言った。「でも安心して!必ず助ける方法はあるから!」そう言って微笑む彼女にオレは安堵すると共に希望を感じた。

それから魔女さんはオレに薬を飲ませてくれた──その薬を飲むことで一時的にではあるが魔物の細胞を抑え込むことができるのだという。ただし完全に回復するわけではないので油断はできないとのことだ。

その後、オレは魔女さんの家で過ごすことになったのだが……正直なところ不安でいっぱいだった。いつになったらこの腕は元に戻るのか?また、元に戻らなかった場合はどうなるのかなど考えれば考えるほど怖くなってしまっていたからだ・・・。

しかしそんな不安とは裏腹に、左腕の変異は徐々に収まっていった。最初は指先だけだった変化が少しずつ腕の方へと移動していき最終的には元の形に戻してくれたのだ──これにはオレも喜んだし魔女さんも喜んでくれた! だが完全に元通りになったわけではなかった──魔物の細胞を活性化させる成分が含まれているため定期的に薬を飲まなければならないのだ。更に言えばこの薬には副作用があり効果が切れると再び魔物化が始まるという厄介な代物であった・・・。(それでもオレは諦めずに頑張るんだ!!)心の中で誓いを立てると新たな気持ちで魔女さんの家を後にしたのだった・・・。

それから数日後──再び魔物退治へと駆り出されることになった。今回は前回よりも大規模な作戦になるらしく、より多くの兵士が参加することになっていた。その中にはもちろんオレも含まれており気合いが入っていた!! そしてついに魔物の巣窟への突入が開始された!オレは剣を手にすると先陣を切って進んでいった!!道中では多くの敵が襲い掛かってきたものの難なく蹴散らしていくことができた。

(よしっ!これならイケるぜ!!)そう思いながら更に奥へと進んでいくと遂に親玉のいる部屋まで辿り着いた! そこには巨大な翼竜のような姿をした魔物がいた──それを見た瞬間、全身に鳥肌が立ったのが分かった。だがここで逃げ出すわけにはいかないと思い直し剣を構えると攻撃を仕掛けることにした!しかしオレの攻撃は全て硬い鱗によって阻まれてしまい全くダメージを与えられなかった。それどころか逆に相手からの反撃を受けてしまうことになる・・・。

鋭い爪による攻撃を受けて吹っ飛ばされてしまうオレ・・・地面に倒れたまま動けずにいると再び魔物の攻撃が迫り来る気配を察知したオレは急いでその場から逃げ出すようにして逃げ出した。だがしかし、今度は別の魔物が現れてしまい挟み撃ちにされてしまう・・・絶体絶命かと思ったその時だった!

「危ない!!」と叫びながら魔女さんが飛び出してきたかと思うとオレを庇うようにして覆い被さってきたのだ。その直後、魔物の攻撃が直撃し倒れ込んでしまう・・・。「しっかりしなさい・・・あなたならきっと勝てるはずよ」そう言って微笑む彼女だったが明らかに無理をしているようだった──その証拠に彼女の右足は不自然な方向に曲がっているのが見えたからだ・・・。それを見たオレは思わず泣きそうになってしまった・・・だがここで泣いてしまってはいけないと思いぐっと堪える。そして心の中で誓った──彼女を守るためにも絶対に勝つんだと!! 覚悟を決めたオレは魔物に向き直ると剣を構え直した・・・。すると背後から魔女さんの声が聞こえてきた。「あなたは強い人よ・・・だから大丈夫、自分を信じて戦いなさい」それはまるで呪文のようにオレの心に染み渡っていった・・・。

(そうだ・・・オレは負けないんだ!絶対に勝ってみせる!!)そう心に決めると魔物に向かって走り出した!魔物もこちらに向かって攻撃を仕掛けてくるがその動きはどこか鈍重に見えた・・・。おそらくさっきの攻撃を受けて弱っているのだろう。(チャンスは今しかない!!)そう思ったオレは一気に間合いを詰めると剣を振り下ろした! ガキィィィンッ!!凄まじい音が響き渡り剣先が地面に突き刺さる・・・同時に魔物もまた叫び声を上げたかと思うと倒れ込んでしまった。どうやら致命傷を与えたらしい・・・。

(やった・・・のか?)オレが戸惑っていると突然、魔女さんが駆け寄ってきた。「凄いじゃない!!」と言って喜ぶ彼女の表情はとても嬉しそうだった。オレも嬉しくなって思わず笑みがこぼれた・・・。

こうしてオレは初めて魔物を倒すことができたのだ──しかし喜ぶのも束の間、左腕から痛みが襲ってきたかと思うとオレの体は成長し始めた!「そんな・・・まだ終わってないっていうの!?」恐怖と絶望に打ち拉がれていると魔女さんがオレに近づいてきてこう言った。「大丈夫、安心してちょうだい・・・」そう言いながら彼女はオレの腕に優しく触れてきたかと思うと呪文を唱え始めた。すると不思議なことに痛みが引いていき腕の縮尺が小さくなっていくことに気がついた。そして完全に元通りになる頃には魔物は消滅していた・・・。

「ありがとう・・・助けてくれて」オレは感謝の気持ちを込めて彼女にお礼を言った。すると彼女は笑顔で答えてくれた後、こう言った。「どういたしまして!それじゃあ帰りましょうか!」そう言うと彼女は歩き始めたのでオレも後を追うようにして歩き出した。こうしてオレ達は無事に帰還することができたのだった──だがこの時のオレはまだ知らなかった・・・これから起こるであろう更なる苦難を!。

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