第8話 魔法の訓練
それじゃあ早速始めましょうか、そう言いながら彼女が呪文を唱え始めるとオレの身体が光り輝き始めた。その光はとても温かくて心地良かったのだが次第に意識が遠のいていくのを感じた──そして気がつくとオレはベッドの上で眠っていたのだった。
(あれ……?)ゆっくりと身体を起こすと周りを見渡す──そこは見覚えのある部屋だった。「あら、目を覚ましたみたいね」声のした方を見るとそこには魔女さんがいた。彼女は笑みを浮かべながら近付いてくるとベッドの横に置かれていた椅子に腰掛けた。
オレは彼女に質問を投げかける──本当に魔法の修行を始めるのか?その答えはイエスだった。これからどんなことをして成長していくのか楽しみになってきたし、何より強くなりたいという思いが強くなったからだ。それからオレと魔女さんの修行が始まったわけだが──その内容は想像していたものよりも遥かにハードなものだった。
まず最初に行ったのは魔力を高めることだった。オレは身体の中に流れる魔力を感じるように意識を集中させる──すると次第に身体中を流れる血液のようなものが感じられるようになってきた。それと同時に身体の奥から力が漲ってくるような感覚を覚えた──これが魔力なのだろうか?そう思っている間にも次々と魔法を習っていったがその度に驚かされることになった。
例えば水を生み出す魔法があるとして、まずは頭の中で思い浮かべるだけでいいのだと思っていたのだが実際には違ったようだ。実際には呪文を口に出さなければならず、さらにその呪文もまた長ったらしいものだったのだ──しかも魔法を発動させる際には集中力を高めなければならないようで、少しでも気を抜くと失敗する恐れもあるようだ。
また、魔力は体力にも関係してくるそうで、あまり無茶をすると倒れてしまうこともあるらしい──だからこそ適度な休息も必要だったし、何より食事を取ることも大事だと言われたのでオレは魔女さんに連れられて近くの村まで買い出しに行くことになった。
そして現在──オレ達は酒場で夕食を取っていた。メニューはパンとスープ、そして焼いた肉だった──どれもシンプルなものだったが料理自体はとても美味しかった。特に肉汁たっぷりのステーキは絶品でオレはあっという間に平らげてしまったのだった。
「あらあら……そんなに急いで食べなくても大丈夫よ」
魔女さんは笑みを浮かべながら言う──その言葉に甘えてオレはゆっくりと食べることにした。それにしても本当に美味しいと思う……今まで食べたどんな食べ物よりも美味しく感じるほどだった──これも魔力の影響なのだろうか?そんなことを考えながら食べているうちにいつの間にか完食していたことに気付くと慌てて財布を取り出す。
「魔女さん、いくらですか?」オレが尋ねると彼女は首を横に振った後で言った。「お金はいらないわ……これは修行の一環だからね」
その言葉にオレは驚きながらも感謝の言葉を述べる──そして家に帰る途中のことだった。突然、背後から話しかけられたので振り返るとそこには一人の女性が立っていた。見た目は20代後半くらいで長い黒髪が特徴の女性だ──彼女は微笑みながら言った。
「初めまして……私はあなたのお祖母様に当たる存在です」
(え……?)突然のことに戸惑っていると彼女は続けた。「あなたを迎えに来たのです」
迎えに?)どういう意味なのか分からず困惑していると彼女は言った。「そのままの意味ですよ……あなたは選ばれた人間なのですから、私達と共に来ていただきましょう……」そう言って手を差し伸べてくる──その手を取ろうとした瞬間、突然後ろから腕を掴まれたので振り返るとそこには魔女さんが立っていた。
「この子は渡さないわ!」そう言うと同時に呪文を口にして女性を弾き飛ばす──すると女性は驚いたような表情を浮かべた後で笑みを浮かべたまま口を開いた。「ふふ……随分と威勢の良いお嬢さんだこと……」
そう言うと彼女は懐から短剣を取り出した──そして目にも止まらぬ速さで魔女さんに斬りかかった!しかし、それは間一髪のところで躱されてしまう──その後も何度も攻撃を繰り出すがその度に避けられてしまい、逆に相手の攻撃を受けてしまうのだった。
(すごい……これが魔法の力なのか?)オレは目の前で繰り広げられる戦いに圧倒されていたが同時に疑問も浮かんでいた。何故あの人はこんなにも強い力を持っているのだろうか? そんなことを考えているうちに戦いは決着がつくことになった──最終的に魔女さんが放った魔法が直撃したことで女性は倒れてしまい、そのまま動かなくなったのだ。
「魔女さん……この人は?」恐る恐る尋ねるオレに魔女さんは答える。「これは『魔女狩り』と呼ばれる連中よ……その名の通り、魔法使いを狩ることを生業にしている連中のことね……」
(魔女狩り?)初めて聞く言葉だったが何となく想像がついた──要するに異端者を排除するために動いている者達なのだろう。だがそうなると疑問が残る──何故オレを狙っているのかということだ。そもそもどうしてオレが選ばれた存在なのかというのも分からない──それについて尋ねてみると魔女さんは説明してくれた。
「あなたが選ばれた理由は分からないわ……でも一つだけ言えることがあるとすれば、あなたは普通の人間ではないということね」
(え……?)オレが聞き返すと魔女さんは説明してくれた──普通ならば魔法は使えないし、ましてやこんなに短時間で使えるようにはならないらしい。つまりオレは他の人間とは違う存在なのだということが分かった。だがそれでも良かったと思う──だってこんなにも素敵な力を手に入れたのだから……! それから暫くの間は平穏な日々が続いたのだがある日のこと──いつものように魔女さんの家に向かっていると村の入口に人だかりができているのが見えた。何だろうと思って近付いてみるとそこには鎧を纏った兵士達の姿があった。彼らは何やら周りを警戒している様子だったので不思議に思っていると一人の男性が話しかけてきた。
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