第4話 冒険者訓練所

ここが冒険者ギルドか……」オレが感慨深げに呟くと、アイリが微笑みながら言った。「何を仰ってるのですか、いつも通ってる場所じゃないですか」

確かにその通りなのだが……オレは初めて訪れた時のように緊張していた。何故なら今日はオレ以外の四人が依頼を受けて出払っているからだ──つまり今ここにはオレ一人しかいないという事である。そう思うと余計に緊張してしまうのだ……だがいつまでもこうしていても仕方ないので中に入る事にした。

中に入ってみると意外と人が多い事に驚かされる──依頼を受ける冒険者や、依頼を出しに来た商人など多種多様な人達がいるようだった。そんな中でオレは周囲を見渡してみることにする……すると一人の女性と目が合った──その瞬間、彼女はこちらに向かって歩いて来るのが見えた。

(なんだ?)訝しく思っていると彼女が声をかけてきた──「あなたがアルフかしら?」どうやらオレの事を知っているようだ……だが初対面だと思うのだが……? オレが困惑していると相手は微笑みながら言った。「やっぱり、そうね! あのサランを説得するなんて凄いじゃない!」

(え?)オレが呆気に取られていると彼女は自己紹介を始めた──どうやらこの女性はサランの仲間のようだ。「あたしはルウナよ……よろしくね」

「えっと……よろしくお願いいたします」突然の事に戸惑いながらも頭を下げると彼女も微笑みながら言った。「そんなに畏まらなくていいわよ、あたし達は仲間なんだからさ」

彼女の言葉に戸惑いながらも頷くと本題に入ることにした──早速だが彼女に聞いてみることにする。「……それで今日は何の御用でしょうか?」

オレが尋ねると彼女は笑顔で答えた。「実はあなたに頼みがあるのよね」

(頼み……?)

オレは首を傾げた──それが何なのか想像もつかないのだ……するとルウナさんは続けて言った。「実はサランがあなたと手合わせをしたいって言ってるのよ」

「えっ!?」予想外の答えに驚きの声を上げてしまう──まさか彼女の方からそう言って来るとは思いもしなかったからだ。だが同時に嬉しさが込み上げてくるのも事実だった……何故なら前回の戦いで、まだ完全に勝てるとは言えなかったのだから。

「分かりました……そういう事であれば喜んで引き受けますよ」

オレがそう答えるとルウナさんは嬉しそうな表情を浮かべて言った。「良かった! それじゃあ早速行きましょうか!」

こうしてオレはサランと共に訓練場へと向かう事になった──道中で彼女が話しかけてくる。「……あんた、本当に強いのかい?」

(え?)突然の質問に戸惑ってしまう──だがすぐに気を取り直して答えた。「いや……分かりませんけど……」……というより比べようがない、というのが正直なところだった。

「分からない? どういう事だい?」

怪訝そうに首を傾げるサランに対してオレは言った──そもそもオレの実力というのは自分で言うのも何だが、ハッキリ言って大したことはないと思っているのだ……それでも冒険者としてやっていけているのは仲間や周囲の人達に助けられているからだと思っている。それにオレ自身、日々成長したいという意欲もあるので努力を積み重ねているつもりではあるのだが……やはり実戦経験の差は大きいと思うのだ。

(まあでもサランだってオレと同じ境遇なら似たようなものだろう)

そう考えながらサランを見る──すると彼女はニヤリと笑みを浮かべると言った。「なるほどね……まあ、お手並み拝見といこうじゃないか」

それからしばらく歩いているうちに目的地へと到着したようだ。訓練場に入った瞬間、空気が一気に変わるのを感じた──そこはまるで闘技場のような造りになっており、かなりの広さを持っていた。そして同時に大勢の人達がいたが彼らは皆一様にこちらを見ており、何やらざわついているのが分かった。

(なんだ?)不思議に思って周囲を見渡していると誰かがこちらへやって来るのが見えた──その人物を見てオレは思わず息を飲む──なぜならそこに立っていたのは、他ならぬサランだったからだ。

彼女と目が合うと彼女は不敵な笑みを浮かべて言った。「久しぶりだね……アルフ」

「ああ……」オレは短く返事をする。「それにしても驚いたよ……まさか君がオレと戦うために仲間を集めてたなんてな」そう言って苦笑するとサランも笑いながら答える。

「あんたが簡単にやられてしまわないか不安でね」

それは挑戦的な言葉だったが同時に期待を込めた眼差しでもあった──それを見てオレは思う……彼女は本気だと。

「それで……ルールはどうしましょう?」オレが尋ねるとサランは少し考えた後で言った。「そうだな……あんたが決めていいよ」

その言葉に思わず首を傾げる──てっきり彼女が全てを決めると思っていただけに意外だった。

(いや、それともこれは挑発のつもりなのか?)

そんな考えが頭を過ぎるがすぐに振り払うと頭を切り替えることにした──今は余計な事を考えるよりも目の前の戦いに集中するべきだと判断したからだ。

「オレは──」そう言いかけたところで思い留まる──そして改めて考え直す事にした。

(参ったな……)

正直、サランとの実力差は歴然としていると言っていいだろう……だからこそ下手な小細工はしない方が良さそうだと判断したのだ。

「よし決めた! お互い素手のみでの真剣勝負でいいんじゃないか?」オレが提案するとサランは少し考える素振りを見せた後で言った。「分かったよ」

(よし……!)オレは心の中でガッツポーズをした──これなら勝機は十分にあるはずだ。あとはオレ自身の力でどこまでやれるかにかかっている──そう思うと自然と身が引き締まる思いだった。

「それでは両者とも準備はよろしいですね?」審判役の女性が確認してくるのでオレは黙って頷いた。対するサランの方も無言で頷くのを確認すると、いよいよ試合開始の合図がなされた。

最初に動いたのはサランの方だった──瞬時に間合いを詰めると素早い動きで蹴りを繰り出してくる──しかしオレにとっては想定内の動きだったので冷静に対処することが出来た。

(よし……)オレも彼女に負けじと拳を握り、素早い動きで殴り掛かる──しかしそれは難なく避けられてしまった。

その後も互いにパンチやキックといった攻撃を繰り出し続けるがなかなか当たらない……というより向こうの動きが速すぎるのだ。それでも諦めずに何度も何度も繰り返し攻撃を繰り返すうちに少しずつだがコツを掴み始めていた。

(いけるかも知れない……!)そう思うと俄然やる気が出てきた──そして今度はこちらから攻撃を仕掛ける事にする。「はああッ!!」雄叫びを上げながら拳を振りかぶると渾身の力で放った一撃が決まる──その瞬間、歓声が上がると共にオレの体は勢いよく吹き飛んでいった。だがすぐに体勢を立て直すと再び攻撃を仕掛ける──しばらく同じことを繰り返しているうちにようやく手応えを感じ始めた。

(よし、いけるぞ!)

そう感じたオレはトドメとばかりに渾身の力を込めて拳を振るった──するとサランの額に当たって鈍い音が響いた……そして次の瞬間、彼女は地面に倒れたまま動かなくなってしまったのだ。

(え……?)思わず困惑してしまう──まさか自分の一撃がこんなにあっさりと決まってしまうとは思わなかったからだ。

「勝負あり! 勝者はアルフ選手です!」審判役の女性が高らかに宣言すると同時に周囲から歓声が上がる。

(勝った……のか?)未だに実感がわかないがどうやらそうらしい──オレは呆然としたままその場に立ち尽くしていた。

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