第40話 想定外の一閃

 それからしばらくして、フランケルが言った。


「準備は整った、さあ、儀式を始めよう」


 玉座の間に、数十匹ものゴブリンを膝間づかせ、大きなテラスには黒竜までもを待機させている。この全ての命を引き換えに、リラを取り込むつもりだ。


「……あなたの術なんかに屈しない!」

「フッ面白い、どれだけ持つか見ものだな」


 王の衣を脱ぎ捨てたフランケルは、身軽なローブに着替えていた。紫色の、身体を包み隠すようなローブには、見覚えがあった。あの時の黒いローブとよく似ている。まるであの時の焼き直しだ、対象がリラになり替わっただけで、最悪なことに変わりはない。


「そうだ、国王陛下をお連れしろ」


 右手を挙げて、綺麗に並んでいるゴブリンの前列に向かって命令する。何も発さない怪物の群れは、ぞろぞろとどこへ消えて言った。残ったゴブリンが不安げにフランケルを見つめている。


「少し欠けたが問題ないか、先に始めるとしよう、なあリラ?」


 気色悪い笑みを浮かべて、孫娘を見る。その顔は国王のはずなのに、もっと別の何か、そう、もっと最悪なもの見えてしまう。

 絶望に顔を歪めるリラを見て、愉しそうに喉を鳴らす。


「クックッ、さあ、始めよう」


 柔らかにしなる指先がリラの頬を撫でた。


「ひッ———!」


 背筋が凍った、その時だった。


「———リラに、触るなぁぁぁぁああああ!」


 紅き一閃が、フランケルを吹き飛ばした。


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