第39話 届いた祈り

「できたぞ――――!」


 作業場の奥から高らかな声が響いた。あれから暫くして、短時間で仕上げてしまった。彼がいかに技術の有る名工かということがわかる。


 すっと、奥から腕だけを出して完成を伝える。その手には、大振りな鎌が握られている。


「最高傑作だ、素材がいいからな」


 次いで身体も一緒に出てくるとカウンターにその鎌を置いた。紅を基調とした刀身に、深い漆黒が走る。元の鎌のデザインを彷彿とさせる仕上がりだ。

 一目でディレも気に入った。受け取ろうと手を伸ばしかける、すると、リセッタが手を出して制止した。


「グレン殿、お代は?」


 確かに、武器鍛冶にタダで武器を打たせるわけにはいかない。すっかり忘れていた。となると、これほどの物だ。振らずともわかる仕上がりには、相当の値段が付くだろう。……ディレは一銭も持ち合わせていないが、どうすればいいのだろうか?


「安心しろ、私が払ってやる。……それで?」

「いらん、この鎌は金で買える代物じゃあないからな」

「……では何を?」


 首を振って対価を否定する、しかし本当にタダというわけにもいかないのだろう、眉を顰めたリセッタが続けて訊く。


「必ず救ってやれ、お前さんらが助けたい者が誰かは知らんが、俺の武器で救えるならそれが本望だ」

「――――約束致します」

「ああ、きっとだ。後でここに連れてきてくれ、俺の武器が間違ってないことを。証明させてくれ」

「もちろん、彼女も礼に来るはずです」


 頷き合ったリセッタとグレン。騎士と鍛冶師の信頼は、遥か以前から続いている。その理由は単純だ、鍛冶師が居なければ騎士は剣を持つことができない。また逆もしかりで、騎士が居なければ鍛冶師は剣を打つ意味がない。


 厳密にいえばそうではないが、使い手と打ち手の信頼というのは無意識に強固になるものだ。それが今、垣間見れた。


「ディレ、セイリン。行くぞ、彼女が待っている」


 三人でグレンに礼を言い、店を出た。行くぞ、と意気込んだはいいが、そもそも彼女がどこに攫われたのかがはっきりしていない。そのため、目撃情報などから割出すしかない。


 リセッタが口元に手を当て、セイリンが首をひねる。それをディレが見守って、とりあえずの方向性を決める、そんな時だった。


『ディレ――――!』

「――――ッ⁉」


 リラの声が聞こえた。思わず辺りを見回すが、当然彼女は居ない。


「どうした⁉ 何かあったのか?」


 様子がおかしいディレに気づき、リセッタが問う。セイリンも慌ててディレに近寄るが、それどころではなかった。


 わかる、わかるのだ。彼女の居場所リラ 、、、が。


「あっち……!」


 確信を得たディレが視線を一点に絞る。何事かとリセッタとセイリンも、ディレの視線の先を追いかけた。その先にあったのは……


「王…宮……!」


 信じられないと言うように、喉を鳴らすセイリン。しかし、ディレは一欠片の疑いもない。絶対にそこに居る、そうわかる。


「……やはり、か。ディレ、本当だな?」

「絶対……居る」


 手にしたばかりの鎌を握り占め、そこに居るはずのリラを想う。絶対だ、救い出して見せる。


 王宮を睨みつけたディレは、そこに向かうべくして一歩を踏み出した。

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