第26話 王都へ

「むっ———⁈」


 唐突の口付けに目を見開くリラ。白く透き通っていた肌が、みるみる赤くなっていった。


「んなっ———!」


 当の本人とは別に、野次馬まで赤くなったのは関係ないか。


「ちょちょちょっ⁈ ディレっ⁈」

「……?」


 まるでリラが間違っているかのように小首を傾げて見せるディレ。


 実際、魔力補給のための行為だ。ディレは大した意味などなくした。というか、行為に置ける意味を知らない。


「何って……!」


 耳まで真っ赤に染めたリラ。今までの呪術師としての鋭い雰囲気が嘘のように、わかりやすく取り乱している。


「ききき、キス! したでしょう!」

「きす……?」


 流石のディレも理解した、どうやら自分は何かをしでかしたらしい。しかし、それが何なのかわからない。


「ディレ……まさか、知らないの?」

「……知らない」


 知るも知らぬも、「きす」が何を指すのかすらわからない。だから、周囲の動揺も理解できなかった。


「なら、今のは?」

「魔力、足りなかった」

「……補給ってこと?」


 ディレの頭をガシッと掴み、膝の上から下ろしてくれないリラ。

 数秒硬直すると、かなり長めのため息を吐いた。


「はぁ〜〜〜〜」


 甘い香りがディレの鼻口をくすぐる。


「それって、今のじゃないとできないの?」


 コクンと頷く。するとリラがかっくりと肩を落とした。


 あの人はああして魔力を補給してくれた。他のやり方もあるのかもしれないが、ディレは知らない。


「わかった、でも急にはやめてね? その……恥ずかしいから」

「わかった……」


 よくわからないが一応首肯しておく。一体何がダメだったのだろうか。


「ディレ、人前でするな。いいな?」


 我慢ならなかったのか、リセッタまで釘を刺す始末。そこまで悪いことをしたのか。


「アル、ごめんね。ディレももう、大丈夫みたい」

「……そ、そうか。なら行こうか、王都に」


 締まりが悪いのか何なのか、よくわからない空気になりつつも、目的は忘れない騎士。


 村を背にした4人は、成すべきことをなすために、一歩踏み出した。


 ……余談だが、彼らの中で一番傷ついていたのは、静かにへこんでいた騎士団長だった。

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