第23話 人形の許し
リセッタとリラのやり取りから数十分後、村を騒がせた一件は収拾へと近づいていた。
騎士団は殲滅したゴブリンの死体を焼き、オーガの解体作業に追われていた。怪物の死骸は死臭をあたりに振りまき、新たな怪物を呼び寄せる原因になってしまう。
せわしなく動く騎士団を横目で見ながら、それを取りまとめる長は口を開いた。
「リラ、ちょっといいか?」
口元に手を当てながら、ささやくようにリラに何か声をかけた。隅に寄るように二人は歩いていく。ついていこうと一歩踏み出す。
「止まらないか?」
背後から声を掛けられた、仕方なく言葉通りにする。
振り返れば、
緩やかに波打つ青髪、すらっとした鼻筋、全てを貫くような凛々しい瞳。一瞬ディレは首を傾げた。それを受け、青髪の女騎士は不満そうに口の端を曲げた。
「……それはあまりにも酷くはないか? 私だ、リセッタ・フラインだ」
「あ……!」
「……『あ』ではなくてだな。その、名を聞いてもいいか?」
名前、彼女に教えてもいいのだろうか、回答を仰ごうにも、リラは既に声の届かない所まで進んでしまっていた。オーガを解体している騎士団の横で、何かを話している。
「……言えないか? 無理にとは言わない。私も、願いを乞うことができる立場ではない」
「……ディレクタ・フィリア。リラは、ディレって呼ぶ」
「――――!」
不安だったのか、垂れ下がる髪を弄っていたリセッタが、目を見開いた。ディレが名乗るのが、そこまで意外だったのか。
「ディレクタ、先ほどはすまなかった。身内のことを散々言ってしまった」
「……別に、リラが許したから、いい」
「……そろって、寛大なのだな。しかし、それでは私の気が……」
「………」
……なにがしたい?
リラに咎められなかったリセッタの不満を、正直な所ディレは理解できなかった。リラは怒ってなどいないといった。なら、それでいいはずなのだが、いったい何が不満なのか。
いや、わかるのかもしれない。罪の意識、それは存外その人の中に残り続けるものだ。清算しなければ、納得のいかないことが多い。それは、ディレの中にもあった。無差別に人を殺し続けたディレ、それが命令で、侵入者という咎人であれど、許されることではない。
もしかすれば、ディレがリラに付いているのも、罪滅ぼしなのかもしれない。
「ディレクタ……?」
無言のディレを不信に思ったのか、眉を顰めて名前を呼ぶリセッタ。罰が欲しいというのなら、この騎士にはうってつけの物があるだろう、自分も、いつかリラに罰を乞わねばならないが。
「ディレでいい……そうしないならやっぱり許さない」
「な……?」
困惑した顔でディレを見つめるリセッタ、理解に苦しんでいるのか、そのまま硬直している。数秒、その状態を静観していると、やっと動いた。
掌を頭に乗せて、顔を歪める。
「は、ははは。なるほど、一杯食わされた訳だ」
「……何も食べてない……?」
「
「……なんでもいい、リラが大丈夫なら。……
伸ばされた掌を、迷うことなく握った。
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