第20話 剣閃の行く末

 鋭い銀閃が迸り、ほんの一瞬怪物がその体をのけぞらせた。

 自身ではない攻撃に、ディレとアルバーンは困惑する。しかし、その原因が声をあげ、即座に理解した。


「騎士団長殿、加勢致します!」


 凛とした声を響かせて、たなびく髪を払いながら、副騎士団長は二人の前に立った。先ほどの、憎しみの感情は消え去り、清々しい闘気が彼女を包んでいる。


「リラはどうした?」

「我ら騎士団の実力にご不満が?」

「……そうか、なら問題ない」


 ふっと口元を緩ませて、騎士団長は視線を向けずに部下のことを見る。背後で奏でられる剣戟の音を聞くだけで、彼らの奮闘を知るには十分だった。

 剣を構え、敵を見据える。


「リラに何かあったら、許さない」


 しかし、未だ信じきれないディレは、一言釘を刺す。この場の雰囲気を壊すような発言だが、二人の騎士は気にしない。彼女の反応は最もで、逆にそうでなくては困る。


「リセッタ、見ての通り僕と彼女ディレがこれだけ戦って、まともな傷がつかない。何か策はあるか?」


 敵がまた一人増え、様子を伺うようにそののどを唸らせる怪物。動きがないのなら好機だ、その間に策ができればなおいい。


「……申しわけありません、私には何も……」

「……! リラ、リラなら何か……」


 リセッタが悔しそうに顔を歪めた直後、ディレに妙案が浮かんだ。


「……本当か?」

「わからない……でも、リラなら何かわかるかも……」


 彼女は呪術使いだ、自身がかけたものではないにしろ、観察する時間があれば何かわかるかもしれない。それに、騎士団がこの場にいる理由は、凶暴化した怪物の元凶でありリラを処刑するためだ。


 それに、モンスターの凶暴化の件とも無関係ではないはずだ。何かしらの要因がある、出なければ、リラの結界を破るほどのモンスターに説明がつかない。


「……リラに訊いてくる———!」


 そう呟いたディレは、くるりと身体の向きを敵とは真逆にし、走り出す。

 標的が逃げ出すような素振りをしたからか、オーガが咆哮を上げた。


「グルアァァア!!!!」


 筋骨隆々としたその剛腕で、自身の指にも及ばない人間を薙ぎ払おうとする。すかさずアルバーンが剣を振るい、ディレへの到達を防ぐ。


「二分だ、その間は僕とリセッタで時間を稼ぐ! 君はその間に———! ぐぁ!?」

「騎士団長!? っく、紅の少女、任せたぞ!!」


 吹き飛ばされた騎士団長を気にしながら、背後に向けて声をかける。彼女の眼前には既に蛮刀が振り下ろされている。それを握る長剣でかろうじて受け止める。


 悠長に眺めている暇はない、今はあの怪物を倒すためのことを考えろ。


「リラ———!」


 騎士団に守られるようにして、集団の中心にいるリラ。その騎士達の手を煩わせているのが、オーガと同じ肌をした怪物、ゴブリンだ。

 その矮躯で軽々と騎士の頭上を飛び交い、原始的な鈍器を叩きつけている。


「ディレ……!?」


 自身の傷を、多少なり呪術で治癒したであろうリラ。出血自体は治っているものの、未だ痛々しい傷口は健在だ。早急に適切な処置が必要だろう。


 そのためには、この状況を打開する必要がある。このまますぐにでも逃げ出したって、ディレは構わないのだが、おそらく彼女はそれを許さないだろう。

 だからこそ、リラに訊かねばならない。


 完全に戦場と化した村門の一体、そこに群がる怪物の中心めがけて跳躍する。

 降り立ったそこには、未だ体勢を変えないリラの姿が。


「リラ、あの大きいの、倒せない」

「……オーガのこと?」

「そう、すごく強い。リラならわかると思って……」


 完結に事を伝え対策を聞き出す。時間がないのだ、詳しく語る暇はない。

 しかし、それだけの情報で全てを理解したらしい主人は、片手を顎につけ、考えこむように俯いた。


「……私の結界を抜けてきた……なら、何者かに結界を上書きできる程の術をかけられた……? ———!」

「……なにか?」


 何かに気がついたように、顔を上げたリラ。しかしその瞳には不安の色が揺蕩っていた。だが、何かあるのならそれに賭けるしかない。彼女もそれ以上の何かは浮かばないだろう。


「……ダメかもしれないけど……もしかしたら———!」

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