【9】突然の恋

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 夕方、木葉君と凛子ちゃんが出社した。

 桃花ちゃんは早速凛子ちゃんに、副社長の話をする。


「すごーーい。でも私は学生だしアルバイトだから、対象外ですよね」


「確かに凛子ちゃんは未成年だけど、大人っぽいし、シンデレラっぽいし、ピッタリだよね。朝、副社長が来店されたんだよ。残念だったね」


 必死で喋る桃花ちゃん。

 凛子ちゃんは軽く聞き流している。どちらが大人かわからない。


「桃花ちゃん、口より手を動かしなさい。仕事は半人前、女としても半人前、それじゃシンデレラにはなれないよ」


 早苗さんの厳しい言葉に、桃花ちゃんは肩を竦める。


 銀座店に配属された直後は、早苗さんの叱責にすぐ泣いていたのに、桃花ちゃんは順応性に優れている。


「店長、私は会議があるので本社に立ち寄り直帰します。あとは宜しくお願いします」


「わかりました。お疲れ様でした」


「お疲れ様でした」


 早苗さんを見送り、私は外回りの準備にかかる。


「木葉君、今から五軒回るからね」


「はい」


「お花とグリーンは選んであるから、車に積んでくれるかな」


「はい、わかりました」


「桃花ちゃん、僕達も行くよ。準備出来てる?」


「店長、もう少し待って下さい」


 桃花ちゃんは慌てて花をバケツに入れる。


「凛子ちゃん、店番は一人で大丈夫かな?」


「はい、早苗さんに教わり、花束なら作れますから。大丈夫です」


「困ったことがあれば電話して。すぐに戻るから」


「はい、皆さん行ってらっしゃいませ」


 店頭はすでに凛子ちゃんファンのおじ様達が並んでいる。


 凛子ちゃんは笑顔を絶やさず、手際よく接客している。


 桃花ちゃんの言った通り、凛子ちゃんが一番シンデレラに相応しい。


 私達は車に乗り込み、得意先に向かった。今夜は同じビルの中にあるショットバーやクラブだから、比較的時間は短縮出来る。


「椿さん、もう独り暮らしされてるんですか?」


「まだだよ」


「じゃあまだご実家に? 駅で見掛けなかったから」


「今は……友達のところにいるの」


「友達ですか?  男性ではないですよね」


「違うよ、学生時代の女友達」


「家を出たのは俺がお兄さんに余計なことを言ったからですか?」


「それも違う。あれは気にしないで」


「あーー……残念だな。椿さんは俺のところに来てくれると思っていたのに。フラれたのに、逆転ホームランみたいに」


「えっ?」


 木葉君の言葉に、思わず目をパチクリさせた。


「それに杉山さんの話では、副社長がガラスの靴を差し出しそうなのは、椿さんだって噂です」


「やだ、それは違うよ。フラワーショップ華は都内に数十店舗あるんだよ。早苗さんが副社長に変なこというから、副社長が来店されただけで、きっと私と逢ってガッカリされたわ」


 笑っている私。

 でも木葉君は笑ってない。

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