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「今朝、本社で小耳に挟んだんだけど」


「本社に行かれたんですか?」


「一応ね、毎朝顔を出せって社長に言われて出社したけど、社長も秘書も今朝はいないのよ。人を本社に呼びつけて、どーいうつもりなんだか」


 今朝はマンションの寝室で社長と秘書は……。

 

 それで遅刻なんて、あり得ないよ。


「早苗さん、何を小耳に挟んだんだ? いい話かな?」


 店長の問いに、早苗さんは唇の前で人差し指を立てる。


「店長は男だから、全然カンケーないんだけど。実は副社長の花咲成明氏が花嫁募集中らしいの」


 それなら、今朝社長と秘書が話してた。


「副社長が結婚するのか。社長より先に結婚するんだ」


 店長はさほど興味はなさそうだ。


「あの最低最悪の鬼畜社長に、嫁なんか一生来ないわよ。もし嫁が来たとしたら、それはあからさまな財産狙いね」


 早苗さん、それはちょっと言い過ぎだよ。


「前社長もスキャンダラスな社長に期待はしていないみたい。弟の成明氏を結婚させて、社長の座を継がせたいみたいよ」


「現社長がいるのに? セレブなお嬢様と結婚されるんだろうね」


「それがね、店長。前社長の人柄からか、お嫁さん候補は社内の女子社員から選ばれるみたいよ」


「女子社員から? それはまた随分と斬新な」


 それは、社長へのあてつけ?


「フラワーショップ華は前社長が一代で築いた会社だから、セレブな家庭で育ったお嬢様よりも、一般の家庭で育ち、社会人として教育された女性と結婚させたいと考えてるみたい」


「そうなんだ」


 桃花ちゃんが瞳を輝かせる。


「副社長は社長よりもやり手だと聞いたことがあります。椿さん、独身女性社員はみんな花嫁候補ですよ」


「みんな? 華ちゃんと桃花ちゃんも? 凛子ちゃんもかな?」


 早苗さんが店長を睨む。


「こらこら、店長。独身女性なら私も含まれるでしょう」


「早苗さんも!?」


「やだ驚かないでよ。冗談ですよ、私は求婚されても断りますから」


 ……だよね。

 前社長の元恋人である早苗さんと、副社長が結婚するなんて前代未聞だ。


 それに凛子ちゃんはアルバイトだし、社長と交際しているから、絶対にナイし。


 私も落ちこぼれ社員だし見栄えもしないからナイな。もしあるとすれば、二十三歳、若くて可愛い桃花ちゃんあたりだ。


「桃花ちゃん、玉の輿を狙うチャンスだよ」


「やだ椿さん。私はその……」


 忘れてた。

 桃花ちゃんは木葉君のことが、好きなんだよね。


「今朝、本社で副社長に銀座店の独身女性のことを聞かれたから、絶賛アピールしてきたからね」


 早苗さんは私をチラッと見た。何か企んでいるような、意味深な笑みだ。

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