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「清楚な女など、成明には似合わない」
「現代のシンデレラだわ。成明氏も前社長には逆らえないようですね。私も前社長には逆らえず結婚しましたけど」
「セレブな女性ではなく当社の女子社員なんて、よく成明がOKしたものだ」
「お好きな女性は愛人にするおつもりでしょう。それよりも成明氏は前社長に取り入り、結婚を期に社長の座を狙っているご様子。社長、前社長との関係を修復なさらないと、社長の椅子を成明氏に奪われますよ」
「社長の椅子か。好きでもない女と結婚し、父のご機嫌を取ってまで、社長の椅子が欲しいなら、成明にくれてやるよ」
「社長! そのようなことを軽々しく口にしないで下さい」
「成明の動向を随時報告しろ。それでいいだろう」
「本当に欲がないのね。だから社長は結婚出来ないのよ」
俺は椅子から立ち上がる。
「着替えてくる」
「着替えなら、お手伝いします」
着替えに、ゆりの手を借りる必要もない。だが、その隙に野良猫を逃がすことは出来る。
「あんず、着替えてくるから、もう下がっていい。見送りは不要だ」
「はい、ご主人様」
あんずと目が合う。
目で合図すると、あんずは数回瞬きし、俺の意図を理解したようだ。
リビングを出て寝室に入る。
ゆりは俺のガウンの紐に手を伸ばし、ほどいていく。
少し時間を稼がなくてはいけないな。
ゆりの肩を掴み、ベッドへ押し倒した。
「社長は相変わらずね」
「君は有能な秘書だ。父は俺と君が特別な関係であると気付き、君を結婚させた。俺が父と小林早苗の結婚を反対したことを根に持ち、父は俺と君の仲を引き裂いた」
「引き裂かれてはいないわ。私達はさらに深く繋がったわ」
ゆりは俺の唇を奪い、美しい脚をベッドの上で乱す。
その脚に手を這わせ、スカートの中に忍ばせて手を止めた。
「……社長」
「ここは俺の自宅だ。ホテルではない。俺は君との関係をプライベートルームに持ち込みたくはない」
「……っ」
「君との関係は、割り切った大人の関係。俺の恋愛感情は君の結婚により、失われた。俺と君は社長と秘書。性的な欲求が生じた場合のみ、互いを癒す。そこに男女の愛はない、契約があるだけだ。ここに来るのは契約違反だ。二度と来るな」
俺はゆりから離れ、ガウンを脱ぐ。
ゆりはベッドから起き上がり、俺にワイシャツを着せる。
プライド高き女の鼻をへし折ったのに、ゆりは何事もなかったかのように、俺の身支度を手伝う。
ネクタイを結びながら、ゆりはほくそ笑んだ。
「もう二度とお宅には伺いません。成明氏が社長のスキャンダルを狙っているやもしれません。油断しました。申し訳ございませんでした」
やはりゆりは魔性の女であり、俺よりも社内の事情に精通する有能な秘書だ。
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