51

「……食事」


 忘れていた。

 夕飯はまだ食べてない。

 でもそんな気分ではない。


「お食事がまだでしたら、ご用意致しましょうか?」


「いえ、結構です」


 お腹がグゥーと音を鳴らす。


「痩せ我慢をするな。ダイエット中ではないだろう」


「社長!?」


 振り返るとそこには社長。

 社長は鞄をメイドのあんずに渡し、ネクタイを右手でキュッキュッと緩め、スルリと外してあんずに渡した。


 さらにスーツの上着を脱ぎ、あんずに渡す。カッターシャツを脱ぎ、上半身裸になった。


 うわ、意外と筋肉質。

 胸板……厚い。

 腹筋割れてるし。


 ていうか、ここは玄関だ。

 いきなり上半身裸はナイだろう。


 あんずは平気な顔で、社長の脱いだ洋服を一枚一枚受け取る。


 まさかこんな場所で、ズボンは脱がないよね。


 それでは公然ワイセツだ。

 私は単なる女子社員なんだから。


 カチャカチャ……。

 嫌な……予感。

 社長がズボンのベルトを外した。


 ズボンのファスナーを一気に降ろし……。


「きゃあっ!? 失礼します」


 私は回れ右をする。


「変なヤツだな。あんず、風呂は沸いてるな」


「はい。ご主人様」


「風呂から出たら食事にする。申し訳ないが、野良猫にも食事を頼む」


「はい、畏まりました」


 部屋のドアを開け、思わず振り返る。社長の後ろ姿が見えた。


 身につけているのはボクサーパンツだけ。まさか、毎日こうなの!?


 おぞましい。

 肉体を披露し、私やメイドに男の部分を見せつける。


 男も羞じらいを持ちなさいよ。


 ――暫くし、ドアがノックされ、あんずが部屋に入ってきた。


「椿様、好き嫌いはございますか? 本日はお魚がメインですが」


「いえ、あの……」


「はい。何でございましょう」


「社長は毎日アレなの?」


「アレと申しますと?」


「裸族……。よく平気な顔をしていられますね。あんずさん、まさか……社長と?」


「裸族? くすっ、椿さんって楽しい方ですね。確かに社長は裸族かな。ボクサーパンツで部屋中うろうろされていますし、時にはバスローブだけ。堅苦しいお立場なので、ご自宅ではきっと解放されたいのです」


 体を解放しなくても、心を解放しなさいよ。


 メイドにセクハラして、楽しんでいるの?


「ド変態だね。だからピンクのメイド服? 悪趣味だよ」


「申し訳ありません。悪趣味ですか? 社長に何を着用しても構わないと言われているので、ついコスプレを。わたくしコスプレマニアなんです。これはわたくしの好みです」


 まじで?

 このコスプレを認めてるの?

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