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「木葉君は謝らなくていいよ。職場に家族間のゴタゴタを持ち込み申し訳ありませんでした。兄夫婦とはちゃんと話し合って誤解を解きます」
「そうね。お兄さんも義姉さんも流産したとなると相当なショックだと思う。きっと誰かのせいにしないと、気持ちの整理がつかないのよ。心中お察しするわ」
「本当に申し訳ありませんでした」
葉子が流産した……。
ショックで体が震えている。
「華ちゃん仕事行ける? 桃花ちゃんに変わってもらう?」
「いえ、桃花ちゃんは店長と他の得意先回りがあります。大丈夫です。木葉君行こう」
「はい。椿さん、今日は俺が運転します」
「ごめんなさい。お願いします」
私は車のキーを木葉君に渡した。
木葉君は車のエンジンを掛け、ゆっくりとアクセルを踏む。
「椿さん、シートベルト」
「……ごめんなさい」
いまだに動揺している私、震える手でシートベルトを装着した。
「落ち着いて」
木葉君は私の右手を握った。
「木葉君……」
「さっきみんなの前で、嘘だと言いましたが、それは椿さんの立場を考えてのこと。俺が言ったことは、全部本当です。椿さん、行くところがないのなら俺のマンションに来て下さい」
「木葉君、ありがとう。でもね、それは出来ない」
「椿さん、お兄さんが朝帰りって言われてましたけど、もしかして……今はその人のところに」
私は言葉に詰まった。
「すみません。俺、この間フラれたのに。往生際悪いですよね」
「本当に嬉しかったよ。ありがとう。でも兄夫婦は赤ちゃんを流産してしまった……。その事実は変わらない」
感情が乱れ涙が滲み、両手で顔を覆った。
「やっぱり私のせいね……。つい口論になってしまったの。だから兄嫁が足を……踏み外した」
「椿さんのせいじゃない。自分を責めないで下さい」
「ごめん。……今だけ泣いてもいい」
「はい。椿さんが俺に心を許してくれてる。俺はそれだけで嬉しいです」
私は車内で形振り構わず泣いた。
この世に生を受けることができなかった小さな赤ちゃんの冥福を祈って……。
◇
五軒の外回りを終え、店に戻るとすでに二十時を回っていた。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。お疲れ様。どうだった木葉君?」
「めっちゃ緊張しましたが、どのお店のママさんもみんな優しくて。ショットバーBerryのママさんに、店で働かないかって、勧誘されました」
「あはは、Berryのママはイケメン大好物だからね。木葉君はイケメンだから、クレームつけるママはいないよ」
「ドキドキしましたけど、椿さんが的確な指示をして下さるので心強かったです」
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