【7】傷ついた恋
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夕方、アルバイトの二人も出社し、私は外回りの準備を始める。
今日から木葉君は私のアシスタント。まだ花束しか作れない木葉君。今までは早苗さんや店長に助けてもらった。
でも今日から、全て私の責任になる。
車に花を積み込んでいると、背後で声がした。
それは、憎しみに満ちた声だった。
「華、あんなことをしておきながら、暢気によく仕事が出来るな」
「……兄さん。赤ちゃんは」
「葉子はショックで……ずっと泣いているよ」
「まさか……」
「俺達の赤ん坊を殺したのはお前だ! あの時、お前が突き飛ばさなければ、葉子は階段から落ちなかった」
「私……突き飛ばしてないよ。葉子さんから聞いてもらえばわかる」
「葉子がお前に突き飛ばされたと言ったんだよ! もう二度と椿の家の敷居を跨ぐな! いいな!」
「兄さん! 違うの…。私は何もしてない」
兄は私に手を振り上げた。思わず体が強張る。その時、兄の手を木葉君がむんずと掴んだ。
「椿さんはそんな酷いことはしません。あなたの奥さんが椿さんに散々嫌がらせをしていたことを、ご存知ですか? それを知っているなら、どちらの言い分が正しいかわかるはずだ!」
「君はなんなんだ! 華のせいで妻は流産したんだ」
「椿さんはお兄さん夫婦を気遣って一人暮らしをするつもりだった。その椿さんが、義姉にそのような酷いことをするはずはない」
「華、お前の朝帰りの相手は、まさかこの若い男なのか」
「朝帰り?」
木葉君が私を見た。
私は首を左右に振る。
「俺は椿さんが好きです。俺は椿さんを信じている。血を分けた妹を信じられないなんて、無慈悲なあなたやご両親の元に椿さんは返しません」
「木葉君……」
兄は私に背を向けた。
兄の手は怒りに震えていた。
兄が立ち去ったあと、とても気まずい空気が流れた。
「木葉君、私を庇ってくれてありがとうございました。嘘を吐いてくれてありがとう」
「嘘? 木葉君、さっき言ったこと嘘だったの?」
早苗さんが木葉君に視線を向けた。木葉君は状況を察し、ハッと我に返る。
「椿さんはそんなことをする人ではないと言うことは本当です。あとはその……お兄さんの言葉に腹が立ち熱くなり過ぎました。ちょっとやり過ぎたかな。椿さんすみませんでした」
「そうだな。木葉君の言葉は誤解を招く。華ちゃんの立場をさらに悪くしかねない。庇いたい気持ちはわかるが、家族間のことに他人が口を挟んではいけない。華ちゃんと恋愛感情があると思わせてしまったことも、反省すべきだ」
店長は木葉君に強い口調で注意した。
「申し訳ありませんでした!」
私を庇ってくれた木葉君が、店長やみんなに深々と頭を下げた。
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