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それって、喜んでいいものかどうか。女として魅力がゼロということなのだから。
じゃあどうして社長は、私なんかにゲストルームを? 単なる一社員なのに。
「いつまでダラダラと喋っているんだ。椿、仕事に行くぞ」
「……はい」
「椿様、夕食はどうなさいますか?」
「夕食!? とんでもない。私は素泊まりで結構です」
ここはホテルではないのに、つい素泊まりだなんて言ってしまった。
顔から火が出るくらい恥ずかしい。
「畏まりました。行ってらっしゃいませ」
社長と私はメイドに見送られ、部屋を出る。エレベーターに乗り込み、駐車場に降りた。
運転手は後部座席のドアを開けた。社長が乗り込み、私もあとに続く。
ドアはゆっくりと閉まり、運転手が車に乗り込んだ。
「社長、本社で宜しいですか?」
「本社に行く前に、銀座店に立ち寄ってくれ」
「はい、畏まりました」
「社長、私は最寄り駅で結構です」
「それもそうだな。野良猫を拾って、他の社員に勘違いされてはたまったものではない。森田、最寄り駅で彼女を降ろしてくれ。彼女が俺のマンションに住んでいることは他言してはならない」
「畏まりました」
社長と共有の秘密を持つなんて……。
もしも店長に知れたら、誤解されてしまう。
―最寄り駅―
ベンツから降りた私は、気持ちを落ち着かせるために、カフェに立ち寄り珈琲を頼んだ。
このことは誰にも言ってはならない。社長と男女の関係にあるわけではないが、やはり誰にも言えない。
珈琲を飲み気持ちを落ち着かせて、カフェを出た。
「椿さん、おはようございます」
「きゃっ……」
思わず悲鳴を上げた。後ろめたいことがあると人は悲鳴を上げてしまうのだと悟る。
振り返ると桃花ちゃんだった。
「桃花ちゃん、驚かせないでよ」
「すみません、私、驚かせました?」
桃花ちゃんはにっこり笑った。
朝から色々なことがあり、混乱している私は、桃花ちゃんの笑顔に少しだけ気持ちが和んだ。
「桃花ちゃんはいいね。悩みなんてないでしょう」
「やだ、それ嫌味じゃないですよね? 仕事のことを考えたら、悩みだらけです」
桃花ちゃんは私を見つめた。
社長のマンションに暫く居候すると決めた私。
桃花ちゃんの澄んだ眼差しに、社長の車から降りたところを見られていないか、気が気ではない。
「椿さんは年の差恋愛をどう思いますか?」
年の差恋愛!?
店長のこと?
それとも社長のこと?
社長と私は無関係だ。
見られたなら誤解を解かないと……。
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