【6】囚われた恋

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 翌日、早朝ホテルから帰宅し洋服を着替える。出社するために部屋を出ると、兄嫁の葉子と廊下で会った。


「華ちゃんまた朝帰り? 最近ラブラブなのね。ご両親が心配してたわよ。ふしだらな関係続けないで、いっそのこと同棲とか、結婚とか、すればいいのに」


 葉子の嫌味にカチンとした私は、いつもなら聞き流すのに、つい口答えした。


「私のプライバシーに干渉しないで」


「疚しいことしてるの? 義姉として感心出来ないな。家族に紹介出来ないような相手なの? まさか不倫なんてしてないよね」


「……っ」


「あーー……気持ち悪い。妊娠は嬉しいけど、悪阻は我慢出来ないわ。華ちゃん、世間体もあるから、未婚の母だけはならないでね。知ってる? 不倫は女性側も慰謝料を請求されるのよ」


 私に視線を向けた葉子はほくそ笑み、次の瞬間前方不注意で階段で足を滑らした。


「……あっ」


「危ない!」


 思わず手を差し出したが、その手は葉子には届かなかった。


「きゃあーー……」


 ドドドドッ……。

 葉子の体が階段から転げ落ちた。


 ドスンッと階下で鈍い音が響く。


 目の前で起こった衝撃的な事故。私は動揺して動けない。


「葉子ーー!」


 二階の寝室から兄が飛び出し、階段を駆け降りた。葉子は床の上でお腹を押さえて蹲り、顔を歪めた。


「葉子ちゃん!」


 両親が一階の寝室から飛び出し、葉子に駆け寄る。


 兄が階段を見上げた。私と目が合った。悲しみと怒りの混ざりあった目だった。


「華……どうしてこんなことを!」


「私は何も……」


 葉子の呻き声とともに、太股から血が伝う。


「大樹、救急車! 早く救急車!」


 母の叫び声に、兄が慌てて救急車を呼び、葉子の手を握った。


「華、もしお腹の子に何かあったら、俺はお前を許さないからな!」


 十分後、救急車の音が段々近付く。

 葉子は自分で階段を踏み外した。それなのに両親も兄も、まるで私が突き落としたような冷たい眼差しを向けた。


 到着した救急車に兄と母が乗り込む。三人が搬送されたあと、父が私に冷たく言い放った。


「どんな男と付き合っているのかは知らないが、葉子さんに注意されたからと言ってあたることはないだろう。お前と葉子さんの話し声は聞こえていた。華、お前は間違っている」


「父さん、私、何もしてないよ!」


 父は話を聞くことなく、私に背を向けた。涙が滲み、言葉が出ない。


 もう……。

 この家には住めない……。


「わかった……。私が出て行けばいいんでしょう」


「華、ちゃんと大樹や葉子さんに謝罪してから出て行きなさい」


「謝罪することなんて何もない。だって、私は何もしてないんだから」


「父さんはお前を見損なった。いつからそんな娘になったんだ。付き合っている男の影響か。お前は親に紹介出来ないような男と付き合っているのか」


「違うわ。父さんは何もわかっていない!」


「華!」


「今までお世話になりました!」

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