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「俺のマンションはシェアハウスではありませんが、椿さんならいつでも歓迎します」
「ありがとう。じゃあ、私行くね。おやすみなさい」
頭ではわかってる。
店長の待つホテルに行ってはいけないことは、わかっている。
理性が壊れてしまったのは、酔っているからだ。
木葉君に甘い言葉を囁かれているのに、私の脳裏には店長の顔が浮かぶ。空和戯でキスをして、店長に逢いたいと体が求めている。
早苗さんに忠告されたのに、私は禁断の恋を断ち切ることが出来ない。サイテーだ。
木葉君と別れ、タクシーに乗った。
「お客様どちらまで?」
「品川のドゥ・ロンサールホテルまでお願いします」
深入りはしない……。
そう思っていたのに……。
あれは一夜の過ちだと思っていたのに。
店長に抱かれたいと心が疼く。
◇
―ドゥ・ロンサールホテル―
ロビーに一歩足を踏み入れたが、まだ引き返すことも出来た。でも私は引き返さなかった。
社長に阻まれ、早苗さんに反対され、世間のモラルに反しないように、理性を保ち二度と過ちは犯さないと決めたはずなのに。
そんな思いも店長と交わしたキスが崩してしまった。
店長に電話をすると、『七階の703で待ってる』と、優しい声がした。
その声に導かれるように、エレベーターに乗り込み、七階のボタンを押す。
もう言い訳は出来ない。
私は自ら禁断の扉を開ける。
これは不倫だ。
エレベーターを降りて、部屋のチャイムを鳴らした。ドアが開き、店長が立っていた。
「待ってたよ」
店長の優しい微笑み。
でも、こんなことをしてはいけない。
そんな想いが、逆に二人の恋を燃え上がらせる。
店長に抱きすくめられ、体の力が抜けた。
ドアがバタンと音を立ててしまった。
もう引き返せない。
貪るように唇を求められた。
普段温厚な店長が、こんなに荒々しい男の部分があるとは思わなかった。
そして私にも、罪を犯してしまう女の部分が潜んでいるなんて。
「もう来てくれないと思っていた。この間、僕を避けたから」
店長は私の体を抱き上げ、ベッドに沈めた。
「華ちゃんを見ていると、仕事が手につかないんだ」
店長は上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩めた。唇を塞いだまま、いきなり体の自由を奪う。
初めて結ばれた時のように、愛されゆっくり焦らすように体を重ねるのではなく、本能のままに乱暴に扱われて戸惑った。
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