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「華ちゃんが結婚するときは、私が全部アレンジするからね」
「……早苗さん」
「だから、みんなから祝福される恋をするのよ」
「……はい」
早苗さんの言葉に、迷いが吹っ切れた気がした。
店長と逢うことはやめよう。
今、お店も大変な時期だ。
早苗さんが私にストップを掛けてくれた。
二人きりで逢いたいと願うことは罪だと。
◇
メールの返信をしないまま、店長が店に戻って来た。
「ただいま」
「お帰りなさい店長。遅かったですね」
「ちょっとアクシデントがあってね。何も変わったことはない?」
「はい、挨拶回りも順調。華ちゃんにスムーズに引き継げそうです」
「そうか」
アクシデントって、何かあったのかな。
桃花ちゃんは明らかに落ち込んでるし、店長は少し機嫌が悪い。いつもは温厚な店長らしくない。
「どうしたんですか? 店長」
「HOTEL MI−NAに行ったら、早苗さんじゃないと困るってクレームを受けて。完成したアレンジもカラーが気にいらないとクレームだよ。それでやり直したから時間が掛かったんだ。やはりホテルや結婚式場は早苗さんじゃないと難しいかな」
「すみません。私が要領悪くて」
「桃花ちゃんのせいじゃないよ。あれは明らかに嫌がらせだから」
桃花ちゃんはグスンと鼻を鳴らす。
HOTERU MI−NAの支配人は女性だ。やり手のキャリアウーマン、私は早苗さんと何度か仕事をさせてもらったことはあるが、その時も私は何度かお小言を頂いた。
「店長、私が後日ご挨拶に伺いますよ。あそこは支配人が煩いから、何度か一緒に仕事をした経験のある華ちゃんの方が適任かと」
私が担当!?
あのホテルだけは勘弁だよ。
「じゃあ、店長今夜はパァーッとやりませんか?」
「今夜ですか?」
店長が私に視線を向けた。
私は慌てて目を逸らす。
「桃花ちゃんの歓迎会してないでしょう」
「そうだね。ちょっとバタバタしていたからな」
「ダメですよ。女子はそういうの意外と気にするんだから。私の行き付けのカラオケに行きません? 今夜は歌いたい心境なの。イイコトがあったから」
早苗さんはトゥモローの花に視線を向けた。
「うん、そうだね。早苗さんの昇進と桃花ちゃんの歓迎会をしよう。みんなでカラオケに行きますか」
「そうこなくっちゃ」
早苗さんは笑いながら、桃花ちゃんの背中をポンッと叩いた。
桃花ちゃんは背中を叩かれ、ビクンと体を飛び跳ねた。
今回はファミレスではなくカラオケ。早苗さんはトゥモローの苗を大事そうに抱え歩く。
「それは?」
「前社長からいただいたの」
早苗さんは店長の質問にも、躊躇なくサラリと答えた。
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