【5】燃え上がる恋
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「小林さん本当ですか? 是非教えて下さい」
早苗さんの提案に、木葉君は即答した。
「そんなに喜んでくれるとは思わなかったな」
早苗さんは自分で提案したものの、苦笑いしている。
「小林さんからフラワーアレンジの指導を直に受けれるんですよ。しかも、無料なんですよね」
「嬉しいのは、そこなの? 木葉君は正直だね。これは仕事だからね、基本しか教えることは出来ないけど、水あげ、いけ方、花束、リース、コサージュ、ブーケの基本を教えるから。本気でやらないとマスター出来ないよ」
「はい! 俺、大学より優先しますから」
「バカね、大学が優先。もしもフラワーアレンジを本気で勉強するなら、弊社に就職しなさい。ただし、コネではなく実力で」
早苗さんは笑いながら、木葉君に視線を向けた。
「週一でいいから、店に一時間早く来れる? バイトの前に教えて上げる」
「はい。勿論です」
「凛子ちゃんはどう?」
「はい、週一なら大丈夫です。小林さんに教われるなんて、ここでバイトして良かった」
「レッスンは無料だけど、その一時間はバイト代は出ないけど、それでもいい?」
「勿論です!」
「店長、二人はこう言ってるけど、いいですか?」
「僕は構わないよ。早苗さんが役員になり、銀座店も多忙を極める。二人が技術を身に付けてくれたら、有り難いからね。アルバイトを増やすことも検討中だから、君たちがバイトのリーダーとなってくれたらいうことはない」
「俺、頑張ります」
「早速だけど、毎週木曜日の三時からということでいい? 月、水、金はアレンジ教室があるし。木曜日が一番スケジュールが空いてるの」
「はい、宜しくお願いします」
木葉君は本当に花が好きみたい。凛子ちゃんよりもノリノリだ。
凛子ちゃんは社長と交際している。多分本気でアレンジの勉強をしたいと思っていないはず。
店の隅で、ちょっと浮かない顔の桃花ちゃんがいた。
「桃花ちゃん、どうした?」
「いえ、小林さんの指導が受けれるなんて羨ましいな」
「基本だよ。桃花ちゃんはもうマスターしてる」
「私、自信なくて。銀座店の顧客はバーやクラブ、スタンドが多くて。水商売って失敗すると怖くないですか?」
「それは水商売に限らないよ。お花はデリケートな生き物、完成度を上げることも大切だけど、お花を少しでも長く咲かせることも大事なの。お客様の要望に応えるのも私達の重要な仕事。私もまだ半人前だから、偉そうなことは言えないけど。桃花ちゃんのフォローは店長がつくから大丈夫だよ」
本音を言えば、不安なのは私の方だ。
フォローされる立場から、木葉君をフォローしなければいけない立場になる。
考えただけで、頭が痛い。
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