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「奥様の? おめでとうございます。どのようなお花をご希望ですか?」
「妻の好きなアマリリスの花をメインにお願い出来るかな」
「はい、畏まりました」
早苗さんはアマリリスの花と、アゲラタムやスモークツリー、数種類の花とグリーンを合わせて花束を作っていく。
前社長は早苗さんの元恋人。
その恋人に奥様の花束を注文するとは。
なんて悪趣味な。
でも早苗さんは顔色ひとつ変えず、花束をラッピングして、前社長に差し出した。
「小林さん、もうひとつ頼めるかな? トゥモローの苗をプレゼント用にラッピングして欲しい」
「はい、畏まりました」
トゥモローは濃黄色の薔薇。花つきもよく生育がおう盛な花だ。
早苗さんは黄色とグリーンのクラフトペーパーで鉢を包みリボンを結ぶ。ラッピングで華やかは増す。
「お待たせ致しました」
カードで精算を済ませ、前社長は優しく微笑んだ。
「ありがとう。トゥモローは君に。その花のように枝葉を伸ばし、大成することを祈っているよ」
「社長。ご期待に添えるように頑張ります。ありがとうございました」
前社長は店の前に待たせている車に乗り込み立ち去る。
早苗さんはその車が見えなくなるまで、頭を下げ続けた。
「早苗さん。奥様に花束って……辛くないですか。どうして前社長はそんなことを……」
「華ちゃん、それは違うわ。社長は役員に抜擢したことと、過去の恋愛感情は無関係であると伝えに来たのよ。伸び伸びと自由にスクールの運営に携わりなさいと、トゥモローの花を私にプレゼントしてくれたの」
社長の気持ちが、早苗さんにはわかるんだね。
二人は今も心で繋がっている。
それは男女の愛とか、そんな次元ではなく、人と人との深い愛。
私と店長もこんな風になれるのかな。
私達は……。
これからどうなるんだろう。
海原にこぎ出すのも、港に戻るのも、それは私次第。穏やかな波なら航海も出来るけど、荒れ狂う波ならば沈没しかねない。
トゥモローの黄色花を眺め微笑む早苗さんは、いつもの厳しい目をした早苗さんとは、別人のようだった。
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