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「若干、不安は残る」
「不安なのは桃花ちゃんだわ。桃花ちゃんのフォローは店長にお願いしたいの。彼女はまだ一人で外回りは無理。華ちゃんなら、木葉君をアシスタントにすればなんとかなるでしょう」
「木葉君はアルバイトだ」
「人員が足りないのだから、仕方がないでしょう。凛子ちゃんと木葉君のバイト時間を増やすか、新しいバイトを雇うしかないわね」
早苗さんは私を見つめた。
「華ちゃんは要領悪いけど、技術はある。木葉君はアルバイトだけど知識とセンスはある。いいコンビだと思わない? それとも店長は桃花ちゃんでは何か都合が悪いの?」
「いや、僕は別に」
「木葉君は花束もちゃんと作れる。私が木葉君と凛子ちゃんに本格的にアレンジを教えます。そうすればバイトも即戦力になる」
「アルバイトなのに、そこまでさせるのは……」
「本人が希望すればの話ですよ。夕方出社したら、私から聞いてみるわ。桃花ちゃん、カフェ李里案のお花用意してる?」
「はい」
「私はいずれこの店から去る。だからもうあてにしないで。困った時だけ、みんなのヘルプをします。得意先には引き続き銀座店を利用していただけるように、お願いするわ」
「早苗さん、宜しくお願いします」
早苗さんは役員に昇格。
店長よりも立場は上となり、店長も早苗さんにはもう逆らえない。
店長は桃花ちゃんとともにカフェ李里案のオープン準備に向かった。
早苗さんはアレンジ教室の準備をしている。私は教室の隅で注文品の花束を作成する。
「早苗さん、本当に凄いですね。役員だなんて。改めておめでとうございます」
「きっと前社長の恩恵よ。有り難く受けるわ」
「前社長の? 早苗さんは大人ですね」
「私と前社長は男と女である前に、善きパートナーだったから。別れても信頼関係は壊れないわ。でもね華ちゃん、あなたにはそんな恋愛は無理、職場で二人きりにならない方が無難よ」
「……えっ?」
早苗さんの言葉にドキッとした。
後ろめたい事実があるからだ。
「あの社長に知れたら、きっと解雇だわ」
「……早苗さん」
「どうせ恋をするなら、報われる恋をしなさい」
早苗さんはやはり気付いてるの?
だから桃花ちゃんのフォローに店長を?
「華ちゃん、手が止まってるよ。その花束、マトリカリアやモカラを加えると、可愛いと思うよ」
「あっ、はい」
黄色の花びら、依頼主の要望で花束のカラーは黄色。グリーンとも相性がよく、明るい色だ。
「おはようございます」
「はい、いらっしゃいませ」
店頭で年配の男性の声がした。視線を向けると、スーツ姿に凛とした立ち振舞いの男性。どこかで見たことがある。
前社長……!?
私は教室の隅で、花束に身を隠す。
「……社長。お久しぶりです」
「もう私は社長ではないよ。小林さん元気そうだね」
「この度は、お口添えありがとうございました。社長が私を役員に推薦して下さったのでしょう」
「はて、何のことかな? 私は今日、小林さんに花束を作って欲しくてね」
「花束……ですか?」
「妻の誕生日なんだ」
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