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「ありがとうございます。木葉君の好意だけいただきます」
「椿さん、やっぱり大学生はダメですか?」
「えっ?」
本日二度目の『えっ?』だ。私は木葉君にからかわれているのかな。
「俺、椿さんのことが好きです」
「……えぇーっ」
思わずカップを掴み、気持ちを落ち着かせるために珈琲を飲む。猫舌の私はあまりの熱さに悲鳴を上げた。
「アチチチ」
木葉君は私を見て、身を乗り出した。
「大丈夫ですか?」
「もう大人をからかわないで。今日も奢らせる気なのね」
動揺している私。
珈琲だけ飲み、レシートを掴む。
「椿さん、そんなつもりでは……」
「いいから、いいから。だけど毎朝はダメだからね」
ドキドキ鳴る鼓動を鎮めるために、木葉君に背を向けた。
落ち着け華。
大学生の戯言だよ。本気にするなんて、どうかしてる。
レジで財布を取り出すと、背後から声がした。
「今日は俺が払います」
「木葉君、私が払うからいいの」
「いえ、俺に払わせて下さい。俺はそんなつもりで、告白したんじゃない」
「告白? や、やだな。木葉君、遠慮しないでいいから」
木葉君とレジでやり取りをしていると、冷たい視線を感じた。
「お客様、他のお客様がお待ちです。早くしてもらえませんか? 個別に精算しますか?」
気付くと後ろに客が並んでいた。私は木葉君と顔を見合せる。
「すみません。これでお願いします」
木葉君がレジの店員に、スッとスマホを差し出した。
◇
「ご馳走さまでした」
現金ではなくスマホ決算。
結局奢ってもらった私。
年上なのに、正社員なのに、バイトに払わせるなんて、情けないな。
「これで貸し借りなしですから。俺の話、真剣に聞いて下さいね」
「木葉君って意外と強引なんだね」
「はい、そう見えませんか?」
「草食系に見えるから驚いた。私、どう対応していいのかわからないよ」
「草食系?」
木葉君はクスリと笑う。
「俺は肉食系なんですけど。それって得してるのか、損してるのか、わかんないですね」
「正直に言うね。私、付き合っている人がいるの。だから、ごめんなさい」
「やっぱりそうでしたか。昨日は恋人とデートだったんですね。わかりました。ハッキリ振ってくれてありがとうございます。モヤモヤしたままバイトしたくないし、スッキリしました」
もうスッキリしたの?
諦めるのも早いな。やっぱりからかわれていたのかな。
私はまだモヤモヤしてる。
仕事中もきっと、気になって仕方がないよ。
大学に登校する木葉君と駅で別れ、私はフラワーショップに向かった。
店の前には社長の車……!?
何のために?
昨夜のこと?
社長と店長が、セントセシリアホテルで鉢合わせしたなんて、最悪の事態にはなってないよね!?
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