29

「ありがとうございます。木葉君の好意だけいただきます」


「椿さん、やっぱり大学生はダメですか?」


「えっ?」


 本日二度目の『えっ?』だ。私は木葉君にからかわれているのかな。


「俺、椿さんのことが好きです」


「……えぇーっ」


 思わずカップを掴み、気持ちを落ち着かせるために珈琲を飲む。猫舌の私はあまりの熱さに悲鳴を上げた。


「アチチチ」


 木葉君は私を見て、身を乗り出した。


「大丈夫ですか?」


「もう大人をからかわないで。今日も奢らせる気なのね」


 動揺している私。

 珈琲だけ飲み、レシートを掴む。


「椿さん、そんなつもりでは……」


「いいから、いいから。だけど毎朝はダメだからね」


 ドキドキ鳴る鼓動を鎮めるために、木葉君に背を向けた。


 落ち着け華。

 大学生の戯言だよ。本気にするなんて、どうかしてる。


 レジで財布を取り出すと、背後から声がした。


「今日は俺が払います」


「木葉君、私が払うからいいの」


「いえ、俺に払わせて下さい。俺はそんなつもりで、告白したんじゃない」


「告白? や、やだな。木葉君、遠慮しないでいいから」


 木葉君とレジでやり取りをしていると、冷たい視線を感じた。


「お客様、他のお客様がお待ちです。早くしてもらえませんか? 個別に精算しますか?」


 気付くと後ろに客が並んでいた。私は木葉君と顔を見合せる。


「すみません。これでお願いします」


 木葉君がレジの店員に、スッとスマホを差し出した。


 ◇


「ご馳走さまでした」


 現金ではなくスマホ決算。

 結局奢ってもらった私。

 年上なのに、正社員なのに、バイトに払わせるなんて、情けないな。


「これで貸し借りなしですから。俺の話、真剣に聞いて下さいね」


「木葉君って意外と強引なんだね」


「はい、そう見えませんか?」


「草食系に見えるから驚いた。私、どう対応していいのかわからないよ」


「草食系?」


 木葉君はクスリと笑う。


「俺は肉食系なんですけど。それって得してるのか、損してるのか、わかんないですね」


「正直に言うね。私、付き合っている人がいるの。だから、ごめんなさい」


「やっぱりそうでしたか。昨日は恋人とデートだったんですね。わかりました。ハッキリ振ってくれてありがとうございます。モヤモヤしたままバイトしたくないし、スッキリしました」


 もうスッキリしたの?

 諦めるのも早いな。やっぱりからかわれていたのかな。


 私はまだモヤモヤしてる。

 仕事中もきっと、気になって仕方がないよ。


 大学に登校する木葉君と駅で別れ、私はフラワーショップに向かった。


 店の前には社長の車……!?


 何のために?

 昨夜のこと?


 社長と店長が、セントセシリアホテルで鉢合わせしたなんて、最悪の事態にはなってないよね!?

 

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