【4】危険な恋

誉side

25

「やはり飲んでいたのね」


 ドアを開けると、ゆりが笑みを浮かべた。


「お前も飲むか?」


「いただこうかしら」


 グラスに赤ワインを注ぎ差し出すと、ゆりは俺の首の後ろに手を回し抱き着いた。


「私には口移しで飲ませてくれないの?」


「口移し?」


 ゆりは妖艶な眼差しを俺に向け、手にしていた赤ワインを一気に口に含むと、背伸びをし俺に口付けた。


 口の中でワインの味が広がり、喉がゴクンと音を鳴らす。


「どうした。お前らしくもない」


 俺の首の後ろに回していた手をほどき、ゆりは自身のグラスにワインを注ぐ。


 テーブルに座り、少し脚を開きワインを一気に飲み干す。


「夫と喧嘩でもしたのか」


「私が主人と喧嘩?」


 ゆりは白いスーツの上着を脱ぐと、片手でブラウスのボタンを外していく。


「主人と喧嘩なんてしないわ。別居しているのだから、喧嘩になんてならないでしょう」


 ブラウスを脱ぐと豊かなバストが露になる。ブラジャーのカップから溢れ落ちそうなバスト。俺を挑発するように足を立て、スカートに手を入れパンストをスルスルと脱いでいく。


「ゆり、脱がなくていい」


「あら、呼び出しておいて、抱かないの? もう私は必要ではないと?」


「そうではない。今夜は気が乗らないだけだ」


「社長が私を抱かないなんて初めてね。新しい相手でも見つけたの?」


 ゆりは下ろしていたパンストをスルスルと上に上げ、脱いでいたブラウスを掴み俺に近付いた。唇が触れそうな距離だ。


「あの子はあなたの相手にはなれないわ。そんな器用な女じゃない」


「誰のことを言ってる?」


「別に。今夜は帰ります。また抱きたくなったら呼んで下さい。私は他の女みたいに、公私混同はしないから。これも秘書の仕事の一環だと思っていますから」


「俺との情事は仕事の一環だと?」


「はい」


 ゆりはブラウスのボタンを止めて、スーツの上着を着用した。


「社長、今夜は失礼します」


 ゆりの後ろ姿を見つめながら、ワインを飲み干す。


 俺との関係は、仕事の一環か。


 流石、敏腕秘書だ。

 父が見込んだだけある。


 ゆりが独身なら仕事もせず、ゆりの体に溺れていたかもしれない。


 父は俺が女に溺れないように、ゆりを結婚させたに違いない。

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