24
社長……!?
今夜の相手も、秘書?
それとも、凛子ちゃん……?
「すみません。部屋を間違えました」
社長は私の手首を左手で、掴んだまま離そうとはしない。
右手にはワイングラス。
赤ワインがグラスの中で揺れる。
「部屋を間違えたのか? 先日と同じ部屋に泊まるとは、よほどの思い入れがあるみたいだな」
「……離して下さい」
社長はワインを口に含み、そのまま私にキスをした。
口移しにワインを飲まされ、口角から赤ワインがタラリとこぼれ落ちた。
「味はどうだ? 高級ワインは格別だろう」
不敵な笑みを浮かべた社長が、鬼畜に思えた。
思わず手を振り上げる。
社長はその手を掴み、私を壁に押し付けた。
ワイングラスが床に落ち、硝子の破片が飛び散った。
「君と先日契約を交わした。君の相手は不問とするつもりだったが、アイツはやめておけ」
……アイツ?
やはり、店長だと気付いてるの?
「私が誰と交際をしても、社長には関係のないこと。社長だって、欲望のまま行動してるじゃないですか。私に無理矢理キスをするなんて……セクハラだわ」
「セクハラ? 君が俺を欲しがっていたから応じたまで」
「……っ、馬鹿馬鹿しい。離して下さい」
「今夜はこのまま帰れ。アイツと寝ても、君は幸せにはなれないよ。体が満たされても、心は満たされたりはしない」
カラダが満たされても……
ココロが満たされたりはしない……。
自分の中にある罪悪感が、心を占める。
「君は俺とキスを交わした。ワインの残る唇で、アイツとキスが出来るのか?」
「……それは」
「男は敏感だよ。女の唇が濡れていることに気付かない男はいない。君はもう浮気をしたも同然。その証拠に、呼吸は上がっている」
「……っ、失礼します」
私は、手首を掴んでいる社長の大きな手に噛みついた。
「……イタッ」
社長が思わず手を離した。
その隙に部屋を飛び出し、エレベーターに飛び乗った。
結局、隣室で待つ店長の元に私は行くことが出来なかった。
社長の言ったことは図星だったからだ。
社長の唇の感触。
赤ワインの味が口内に残っている。
このまま店長に抱かれることは出来ない。
不倫は間違ってる。私はどうかしてた。
エレベーターは一気に下降するのに、私の心拍数は上昇している。ドアが開くとそこには社長秘書が立っていた。
秘書は私に視線を向けると、冷たい眼差しを向けた。すれ違いざま、小さな声で囁いた。
「洋服の襟に赤ワインがついてるわよ。刺激的な味がしたでしょう」
私は思わず手で襟を隠す。
エレベーターのドアがゆっくりと閉まった。ドアの隙間から私を見つめる彼女の唇が、不敵な笑みを浮かべた。
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