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店長は店内に戻ると、水あげした花の茎を、バランスよくカットしていく。
私は気持ちを落ち着かせようとするが、焦りからアレンジが纏まらない。
「少量の花を器の片側だけにいけてごらん。あとはレースフラワーを左右に、少し長めにアレンジすると、広がりと流れを感じる」
「はい」
あとは……グリーン。
今日はお客様の要望にすぐに対応出来ない自分の未熟さを痛感した。
「お疲れ様でした。またお願いしますね」
「ありがとうございました。失礼します」
予定時間を一時間近くオーバーして、bar HARUMIに向かう。
私はすでに意気消沈だ。
「華ちゃん、何事も経験だよ。最初から完璧に出来る人なんていない」
「店長がいなければ、私、オーダーに対応出来ませんでした」
早苗さんや店長がいなけれぱ何もできない自分にかなり落ち込む。
「華ちゃんは謙虚だね。そんなところが好きだよ」
店長の言葉に、沈んだ気持ちがフワッと浮き上がった。
「さあ、次頑張ろう」
「はい。頑張ります」
自然とそんな言葉が口から漏れた。
◇
―bar HARUMI―
真凛のママとは対照的。
HARUMIのママは年配の落ち着いた雰囲気だ。
「おはようございます」
「あら、今日は早苗さんじゃないの?」
どの店に行っても、同じセリフでお出迎えだ。
「今日から椿が担当させていただきます。宜しくお願いします」
「そうなんだ。ちょっと残念だけど、フラワーショップ華も、人材育成しないとね。宜しくお願いしますね」
「はい」
さきほどのような失敗をしないように、店長のアドバイスを思い出しながらアレンジしていく。
「そんなに固くならないで。リラックスしていいのよ。あなたは早苗さんとは違うわ。あなたらしいアレンジをしてくれればいいのよ」
HARUMIのママの言葉が、涙が出そうなくらい嬉しかった。
◇
店に戻ると早苗さんが桃花ちゃんを厳しく指導していた。
今日が初日、しかも新入社員。それでも容赦しない早苗さん。正社員には厳しい。
早苗さんのアシスタントになった当初、毎日緊張の連続で体調を崩した。
早苗さんの指導は厳しいけど愛があるとわかったのは最近だ。
数年は蕀の道だな。
でもそれは早苗さんが銀座店にいればの話。
「ただいま帰りました」
「お疲れ様。華ちゃんどうだった?」
「まだまだダメです。頑張ります」
「頑張ってよ。華ちゃんは指導する立場なんだからね」
それは苦手だな。私には一生アシスタントが向いてるかも。
「桃花ちゃん、フラワーアレンジの資格あるんだからさ、薔薇の名や樹形がわかんなくてどうすんの。木葉君でもわかるんだよ。正社員なのに勉強不足だよ」
「……すみません」
桃花ちゃんの目から大粒の涙が零れ落ちた。
あーあ……。
初日で泣いちゃったよ。
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