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美容室に注文の観葉植物と胡蝶蘭を納品。フラワーショップ華から、開店祝いにと赤い薔薇を使ったリースをプレゼントした。
「新装開店おめでとうございます。こちらのリースは当店の小林がアレンジしたものです」
「早苗さんが? まぁ素敵。ありがとうございます。サービスするので、是非皆さんでいらして下さいね」
「はい。ありがとうございます」
納品をすませ、私は店に戻る。
「ただいま戻りました。あれ早苗さんは?」
「得意先回りだよ。早速桃花ちゃんを連れて行った」
「そうですか」
自分の仕事を奪われた気がして、ちょっと寂しい。
「華ちゃん、ちょっといい」
「はい」
店長に呼ばれて、私は事務室に行く。
「そこに座って」
「はい」
木葉君と凛子ちゃんは店番。事務室に二人きり。店長を意識して、トクトクと鼓動が速まる。
店長が私に珈琲を差し出した。店長に珈琲を出してもらえるなんて緊張してしまう。
「ありがとうございます」
「早苗さんと相談したんだけど、指名のない店舗をいくつか華ちゃんに担当して欲しいんだ。暫く僕がフォローするから」
「店長……。ありがとうございます。でも……」
「僕と一緒では不都合かな。木葉君や凛子ちゃんはアルバイトだし、フラワーアレンジの資格もない。かといって、華ちゃん一人ではパルマンティエホテルのような要望に対応出来ないからね」
「……はい」
「僕は華ちゃんに、いずれは銀座の得意先も、ホテルや結婚式場も担当出来るくらいになって欲しいと思っている。早苗さんはいずれスクールの講師として、いつ引き抜かれるかわからないからね。あの社長が人事異動に応じたのは、それが近いということだから」
「……ですよね」
「銀座店が対応出来なければ、早苗さんの異動と共に顧客も離れる。それは避けたいんだ」
早苗さんのお得意様を、銀座店に繋ぎ止めるのは、私一人ではまだ力量不足だ。
「早苗さんのアシスタントはみんな続かなくてね。長年務めてくれたのは華ちゃんだけだよ。だから早苗さんも華ちゃんの実力を認めてる。大丈夫、一緒に頑張ろう」
店長がスッと私の手を握った。私は思わず手を引っ込めた。
「ごめんなさい。お店では……」
「そうだよね。仕事の話に戻ろう」
店長が顧客リストをパラパラと捲った。
「今から少し外回りしてみようか」
「今からですか?」
「スタンド真凛と、bar HARUMI 、以前早苗さんと回ったことがあると思うから。華ちゃん、納入のお花用意して」
「はい」
私は店内に入り、アレンジ用の花を選び用意する。担当させてもらえるなら、早苗さんの真似ではなく、私のアレンジがしたい。
ダリアやシンビジウム、アマリリスやユリ、主役となる大輪の花達とつる性や垂れ下がる性質のグリーンを幾つか選び準備した。
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