15
午後のレッスンを終え、早苗さんと外回りの準備に取り掛かる。今から新宿のホテルに向かい、急遽婚活パーティー会場のフラワーアレンジだ。
十六時半、木葉君が出社した。凛子ちゃんは本日はお休み。木葉君は私服の上に制服である黒いエプロンをつける。
イケメンは何を着けても似合うから得だな。
「おはようございます。椿さん、今朝はご馳走さまでした」
夕方なのに、挨拶は『おはようございます』これが当社の決まり。
「今朝? 華ちゃん、まさか昨日木葉君と……?」
早苗さんは完全に誤解してる。
「違いますよ。やだな、木葉君は凛子ちゃんを送ったでしょう。一緒に見送ったじゃないですか」
「そうだっけ? 木葉君、送り狼してないよね?」
木葉君は驚いて首を左右に振る。
「やだな。凛子ちゃんはまだ十八歳ですよ。俺、年下には興味ないですから」
早苗さんは口笛を鳴らし、木葉君をからかう。
「年上が好きなの? 何歳までイケる?」
「何歳まで? 年齢関係ないですよ。その人が輝いていれば素敵だと思うし、歳なんて関係ないです」
「流石だな。そのセリフで何人年上落としたのよ。ホストクラブに行けばナンバーワン間違いないね」
「早苗さんっ! 木葉君気にしないでね。私達今から外回りだから、店長の指示に従ってね」
「はい。行ってらっしゃい」
車のトランクに花材やグリーンを積み込み、運転席に乗り込む。
「早苗さん、純真無垢な若者を違う世界に導かないで下さい。星華大学は偏差値高いし、みんなエリートなんですからね」
「あの容姿だよ。陰で何やってるかわかんないでしょう。それより、『今朝はご馳走さまでした』って、どういう意味よ?」
早苗さんは煙草を取り出し、ライターで火をつける。ライターにはホストクラブの店名と源氏名が記されていた。
「今朝、駅で偶然逢ってモーニング食べただけです」
「なんだ、食べられたのかと思った」
早苗さんは相変わらず口が悪い。でもフラワーアレンジ界ではトップクラスだ。
―新宿、パルマンティエホテル―
従業員専用駐車場に車を停め、カートに花材の入ったバケツを積み従業員専用エレベーターに乗り込む。
会場は三階、室内も慌ただしく準備中だ。
「おはようございます。お疲れ様です」
「小林さん、急遽すみません。こちらの手違いで、開催日を間違えてて。本日は宜しくお願いします」
「ミスだなんて、田中さんらしくないね。今日はどうしますか?」
「明るい花で華やかなイメージにしていただけますか?」
「はい、わかりました」
「各テーブルにもアクセントとして飾りたいのですが、時間大丈夫かな」
「開場は十九時ですよね? あと二時間弱か。硝子の小ぶりな花器ありますか? そこにアレンジします。可愛らしく決めますよ」
「テーブルは全部で三十です」
「わかりました。華ちゃん、任せたからね」
「私ですか?」
「当たり前でしょう。私はメインのお花があるんだから。アネモネとアゲラタム、スカビオサやブルーレースフラワーもいいわね。グリーンネックレスやシュガーバインも使って。ほら、時間ないよ」
「は、はいっ……」
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