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「華ちゃんもそろそろ担当持たせてもいいわね。ねぇ店長」


「そうだね。でも昨日社長憤慨してたからな。スクール開校の話は消滅かも」


「だよね、ちょっと言い過ぎたかな。でも私は広い教室に何十人も詰め込むよりも、十人前後を教える方がいいわ」


「そうですよね。私もその方がいい。早苗さんがずっと本社になったら、銀座店回らないですよ」


「だから、華ちゃんが頑張るんでしょう。店長、華ちゃんに幾つか担当回して」


「そうだね。そろそろ華ちゃんも一人立ちする時期かも知れないな」


 いつも反対するのに。

 あっさり賛成したのは、昨日私と寝たから?


 店長に視線を向けると目が合った。思わず視線を逸らす。


「おはようございます」


 午前のクラスの生徒さんが、続々入店する。


「おはようございます」


 私は準備した花材やグリーンを教室に持ち込んだ。


 ――午前中のレッスンを終え、昼休憩。店番は店長に任せ、教室の片隅で早苗さんと昼食をする。


 私は駅で買ったサンドイッチとジュース。早苗さんはコンビニ弁当だ。


「ねぇ、華ちゃん。今日店長変じゃない?」


「えっ?」


「なんか落ち着きがないんだよね。奥さんと喧嘩でもしたのかな」


「……そうですか? いつもと変わらないと思いますけど」


「そうかな」


 早苗さんはカンがいい。

 私と店長の不倫なんて、きっとすぐに暴かれてしまう。


「早苗さんはあれからどうしたの?」


「私? 社長からもらった特別賞与、パァーッと使ったの。アイツからもらったお金、財布に入れると運気が下がりそうで嫌だったから」


「えーー……全部ですか! 勿体ないなあ」


「ホストクラブじゃ、足りないくらいだよ」


「ホストクラブ!? 早苗さんって、そんなところに行ってるんですか?」


「たまーにね」


 早苗さんがホストクラブだなんて、驚いたな。


「華ちゃん行ったことないの? 今度連れていってあげようか」


「いえ、私はそういうところは苦手なので……」


「だよね。華ちゃんは免疫ないから、きっとすぐ男に騙されちゃうよ。危険な恋はスリリングで刺激的だけど、気をつけなよ」


「はい、重々気をつけます」


 もう……。

 片足、突っ込んでる。


「それより昨日私達社長に楯突いたけど、お咎めなしだってよ。あんなに憤慨していたのに、お咎めなしなんて、どうしたんだろう」


 私との約束を社長は守ってくれたんだ。

 そんなに前社長が怖いのかな。


「早苗さん、社長と何かあったんですか?」


 早苗さんは箸を止め、私をギロリと睨む。


「別に。Bクラスはプリザーブドフラワーを使った壁飾りね」


「はい」


 早苗さんと社長の間に、何か蟠りがある。私には社長の方が早苗さんに気を使っている気がする。


 やっぱり……。

 あの噂と関係しているのかな。


 気になるけど、パンドラの箱を開ける勇気はない。

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