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出社する前に目黒の自宅に戻る。我が家は五人家族だ。両親と兄夫婦と小姑の私。二年前に結婚した兄夫婦には、いまだに子供はいない。
兄嫁は私より三歳も年下の二十六歳。生活費を浮かすために、狭い我が家に同居し、私の隣室が兄夫婦の寝室。
自宅なのに、完全に私の居場所はない。
「ただいま」
「お帰り。華、お前朝帰りするとは、どういうことだ!」
父より先に怒鳴ったのは、兄、
「やだ、大君怒鳴らないで。華ちゃんだって恋人くらいいるわ。ねぇ華ちゃん」
年下のくせに、姉貴面している兄嫁、
「華、外泊するなら連絡くらいしなさい」
父がボソッと呟く。
「ごめんなさい。昨日は銀座店の売り上げトップのお祝いとアルバイトの歓迎会で飲み過ぎたの」
「飲み過ぎて、目が覚めたら……。うふふ、なーんてね」
「お姉さん、勘違いしないで。早苗さんのマンションに泊まっただけだから」
「早苗さんって、あの小林早苗でしょう。雑誌にもよく掲載されてるし、超有名だよね。華ちゃん、先生のアシスタントでしょう。凄いね。キャリア目指してるんだね」
完全に私を見下した言い方だ。ちょっとカチンとくるが、そこは聞き流そう。
「華も朝御飯食べなさい」
「お母さん、すみません。華ちゃんが帰ると思わなくて、今朝は四人分しか朝食を用意してないんです」
明らかに計画的だな。
私をさりげなく排除してる。
「いいよ、私はすぐに仕事行くから。朝御飯はいらない」
私は笑顔で二階に上がる。
お腹がグゥーと音を鳴らす。こんなことなら、店長と一緒にモーニングでも食べれば良かった。
そうすれば、社長とホテルの廊下で遭遇することもなかったのに。
でも、そのお陰で私は解雇されずにすんだのかな。
◇
着替えを済ませて、家を出て駅に向かう。
空腹に耐えきれず、駅前のカフェに立ち寄り、一人でモーニングを食べる。
二十九歳の私。
結婚しなくても、そろそろ実家を出るべきだよね。いつまでも小姑がいては、兄嫁も居心地が悪い。
いつか小さな花屋を開店したくて、コツコツ開業資金を貯めている。その為に邪魔者扱いされても、実家で我慢している。
私は早苗さんみたいに才能がないから、フラワーアレンジのスクールを開けるような器ではない。
下町にあるような小さなお花屋さんでいい。いつか……この夢を叶えたい。
「あれ? 椿さん?」
名前を呼ばれて振り向くと、そこには爽やかな笑顔の木葉君がいた。
「木葉君、おはよう。木葉君も目黒なの?」
「はい。椿さんも? 同席していいですか?」
「いいよ。今から大学?」
「はい」
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