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「謝るのは僕の方だ。僕は妻も子供もいるのに。華ちゃんを……。ごめん」
「謝らないで……」
「僕は結婚している。お見合い結婚でね、親の勧めるままに妻と結婚した。妻は我が儘な性格で愛情は冷めている。華ちゃんのことが、ずっと好きだった。だから嬉しかった。でも僕は子供を愛している。だから妻とは離婚出来ない。華ちゃんを好きだという気持ちに偽りはない。またこうして逢えないかな。
結婚しているくせに、都合よすぎるよね」
「いえ……」
これは不倫だ。
店長には奥様と子供がいる。
恋に堕ちてしまうことは、罪なこと。
誰も幸せにはなれない。
「……私、ずっと店長に憧れていました。叶わない想いだと思ってました」
「華ちゃん。僕達のことは誰にも言わない。だから……また逢って欲しい」
一夜の過ちで済まされることのない罪を私は重ねる。
店長の唇が重なり、絡まる舌に理性は崩れ落ちた。体に纏っていた布団が剥がされ、裸体が露になる。ゴツゴツとした大きな手が胸に触れ、体を唇が這う。
「……店長」
「好きだよ」
こんな始まりが……あるなんて。
自分には無縁だと思っていた。
同じ職場で働く上司と部下。店長の薬指にマリッジリングは嵌められたままだ。
これは浮気……?
この恋は本気……?
絞めていたネクタイを再び緩め、店長は私の唇を何度も奪い、体を優しく愛撫した。
「浮気は……いや」
一生薬指で結ばれなくてもいい。
でも……弄ばれるのはいや。
「本気で愛して……」
店長は優しい笑みを浮かべ、私の唇を塞いだ。
◇
情事を終え、私はホテルの部屋を出る。誰かに見られないように、店長より一足先に部屋を出て、一旦帰宅し洋服を着替えて出社するつもりだった。
部屋を出たと同時に、隣室のドアが開いた。
カツンとハイヒールの音が鳴る。赤いエナメルのハイヒールが見えた。そのハイヒールに見覚えがあった。
隣室から現れた女は赤いスーツ。男は黒のブランドスーツ。
「……社長」
そこに立っていたのは、社長と秘書だった。
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