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本来ならば、ワイワイと盛り上がるはずなのに、社長と秘書の存在に圧倒され、緊張から喉が渇き、私は一気に飲み干す。
目の前には高級フランス料理。
「君が小林さんのアシスタントか? 確かフラワーアレンジの資格は有してるのだよな。銀座のバーやクラブのアレンジは彼女に任せることは出来ないのか」
「小林を指名して下さるお客様ばかりで、新規のお客様はお断りしている状態ですが、常連さんはお断り出来ません」
「やはり、名前で採用すると使えないな」
「えっ?」
名前で採用?
一体何のこと?
秘書が手にした手帳を開き、私に視線を向けた。
「フラワーショップ華の、社員の採用は人事部ではなく、以前から社長が選考されています。すなわち新社長が就任される前は、前社長が選考されていました。前社長の選考は至ってシンプル。氏名に植物や花を連想させる漢字が含まれているかどうか。銀座店でいえば、店長は幹の字、小林さんは苗、そして椿さんの場合、椿と店名である華の文字。椿さんの場合、店名と名前が一致したことで、採用されてますね」
私は名前で採用?
資格も、人間的にも評価されたわけではなく、華という名前だけ!?
「前社長の選考方法には、かねてより問題が生じていました。無能かつ、美に乏しい社員が増えてしまい、現在に至っています。フラワーショップ華のイメージを損なわないようにと、新社長が現在改革をされている次第です」
成る程、だからアルバイトは全て美男美女。
悪かったわね。
無能で美に乏しくて。
顔で選ぶなんて、前社長とたいして発想は変わらないよ。いや、劣る採用基準だ。
私はドンペリのボトルを掴み、自身のグラスに注いだ。
「華ちゃんは資格もあるし、銀座店でなくてはならない存在です」
店長が私を必死で褒めた。
「そうとも一概には言えないな。君程度の実力ならいくらでも代わりはいる」
社長の威圧感な眼差しに、思わず睨み返した。
「生意気な女だな。悔しいか? ならばその名に恥じぬように、仕事で評価される人物になるんだな」
完全に私をバカにしてる。
「社長お言葉ですが、椿はとてもよくやってくれています。小林がスムーズに仕事をこなせるのも、椿あってこそ」
「そうね。スピードはないけど、仕事はやり易いわ。社長、私のアシスタントは私が決めます。スタッフを増員して下さるのは大歓迎ですが、華ちゃんを飛ばすなら、私の進退も視野に入れないとね」
「君の進退? この女のために辞めるというのか?」
「そうよ。だから波風立てないでくれるかな。新社長だか何だか知らないけど、一代でフラワーショップ華をここまでにしたのは、前社長だわ。あなたの力ではない。私が独立しないのは、前社長に恩があるからよ。親の築いた財力に、胡座を掻いて天狗になってるお坊ちゃんには、口を挟んで欲しくないの」
「……っ、何だと」
見かねた店長がその場をおさめる。
「早苗さん、口を慎んで。社長申し訳ありません。どうやら高級な酒に、みんな悪酔いしてしまったようです。無礼な発言をお許し下さい」
「社員の管理は、店長である君の責任だ。不愉快だ、今夜は失礼する」
社長は憤慨し、秘書と共に立ち上がる。私は早苗さんと店長の潔い言葉に思わず感動した。
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