【1】秘密の恋

華side

木葉羅瑠久きばらるく星華大学せいかだいがく三年、宜しくお願いします」


 爽やかな好青年。スレンダーな体。

 ブルーの瞳、黒髪。カラコンだと思ったけど、名前からしてどうやらハーフらしい。


 ここはフラワーショップはな、銀座店。偶然にも私と同じ名前だ。


 フラワーショップ華corporationの店舗は、都内に数十店舗あり、小さな店舗は駅の構内から銀座店のようにフラワーアレンジを専門とする店舗もある。


 店長は幹良介みきりょうすけ、三十二歳、妻子あり。


 副店長は小林早苗こばやしさなえ、三十五歳。店内でフラワーアレンジの教室を開くほど、彼女はこの世界では知名度も高く、彼女のお陰で注文は殺到していると言っても過言ではない。


 独立しても十分やっていけるはずなのに、当社と専属契約を結び社長が手放さないという噂だ。


 そして私、椿華つばきはな、二十九歳。一応フラワーアレンジの資格もあるが、まだ教室を開くほどの人気も実力もない。


 勤続七年目にして、未だに副店長早苗さんのアシスタントだ。


 銀座店の正社員は三名。

 社員は外回りが多く、店内の混み合う夕方から夜の時間帯と、日祝はアルバイト二名でシフトを組んでいる。


 人員的にはとても足りている状態とはいえない。


 アルバイトの一人は向日葵女学院大学在籍の、小桜凛子こざくらりんこ十八歳。


 某アイドルグループのメンバーよりも色白でキュート。彼女が働く夕方から夜の時間帯は、銀座のネオン街に流れる男性の足が止まり、来店客がドッと増える。


 そして今回採用されたのが、イケメンハーフの木葉羅瑠久。これは銀座で働く御姉様方と、女性客のハートをゲットするためだ。


 社長の魂胆はみえみえで、バイトのスタッフは美男美女を揃え売り上げアップを目論む。


 先代の社長が今年引退し、長男花咲誉はなさきほまれ氏が代表取締役社長に就任し、どの店もアルバイトは美男美女で溢れている。


 履歴書は写真重視。面接は美形有利。

 芸能プロダクションでもないのに、従業員まで美に拘わる周到ぶり。


 今就職試験を受けたら、きっと私は書類選考で落とされていただろう。


「木葉羅瑠久か、ハイカラな名前だね。お母さんがアメリカ人なんだ」


「はい。母がアメリカ人で父が日本人。外見はハーフですが、ずっと日本で育ったので、英語は苦手ですが簡単な英会話くらいなら可能です」


 店長の質問に日本語でスラスラと答える。


 なんだ、日本語ペラペラで英会話も出来るんだ。これで日本語しか話せなかったら、逆に笑えたのにな。


「今夜、木葉君の歓迎会をするから。凛子ちゃんも参加出来るよね」


「はい」


「新社長になりアルバイトは容姿で合否が決まる。だからみんな続かないのよ。すぐに辞めちゃうんだからさ、教えてもキリがないよね。華なんて、今だったら絶対受からないよね」


 ていうか、副店長の早苗さんだって不採用だよ。


「まぁまぁ、内輪揉めしないで。社員同士楽しくやりましょう」


「楽しくなんてやってらんないよ。得意先回りの花材もう用意してる? 華、得意先回りに行くよ」


「はい。今日は五店舗です」


 車に花材とグリーン《葉もの》を積み込み、私と早苗さんは二人で契約先の銀座のクラブやバーに向かった。

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