薬指の誘惑

ayane

プロローグ

 ――いつからだろう。


 『結婚』という名の契約に疑問を抱くようになったのは……。


 それは……。

 あなたに抱かれたから?


 甘い蜜を求めるように、口内を動くあなたの舌に翻弄され、私はあなたに溺れる。


 軋むベッド……。


 私の腰を掴む、あなたの逞しい手……。


 左手の薬指には、私ではない女性のイニシャルが彫られた、プラチナのリング……。


「僕以外の男に抱かれてもいいんだよ。束縛はしない」


 妻は束縛するのに。

 私は自由なんだ……。


 あなたにとって……。

 私はカラダだけ?


 私は本気ではなく都合のいい女?


 この恋に終着駅はないとわかっているのに。


 それでも私は……。

 あの夜、あなたに抱かれた。

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