第百十三討 瑞穂ノ神様説話
簀巻き状態から解放された
「この国の神様には二種類いるの」
「二種類?」
「そ。神の祖たる
教師役はちょいちょいと縮こまっている少女を指した。
「ふーん。神社にお参りはするけど、その辺はあんまり意識したこと無いなぁ」
「瑞穂人なのに不信心娘ねぇ……と言いたいけど、今時そんなものよね」
時代が下って、瑞穂の信仰は日常と合一した。改まって神に祈りを捧げる事など多くはなく、せいぜいがハレ祝いとケガレ
「そんな貴女が参る社には全て神が祀られてる。ああ、廃神社は別ね」
「ふむふむ」
「分かりやすく言うなら、この帝都の
自身の知識を得意げに示して、ユウコはくるくると指を回す。
「一部の自然神は瑞穂大神への信仰よりも昔から祀られていたりするわ。すごく簡単に分別するなら、名前に『日』が入っていれば直系ね。私は日照雨だから二つ『日』が入ってるの。ああ、当然だけど直系自然の両方とも例外はあるわよ」
「なんだか難しくなってきた」
サラが腕を組んで唸る。そんなに難しい事言ってないわよ、とユウコは彼女を指さして、ようやく本題へと入っていく。
「人の祈りは神の力。知られ、広まり、信じられる事で神様は強くなる。だから
「自然神はその逆で信仰が狭い……力が弱い?」
「アカリちゃんは賢いわねぇ、その通り。例外は勿論あるけど大体はそんな感じ。大昔は両者ギスギスしてたけど、今ではこういう感じになっているのよ」
そう言って彼女はスッと視線を雨垂水玉姫へと向けた。
「ね」
「ひゃいっ!その通りでござりまするですじゃっ」
「怖さで滅茶苦茶になってるじゃん。ユウコ、いじめは駄目だって」
「あらあら濡れ衣よ~」
くすくすと悪い笑みを浮かべるユウコ。自分を正しく神として敬う、下の立場の神と出会って機嫌が良いのだろう。
「ほらほら、立って立って」
「い、いやしかし……」
「良いの良いの。どーせユウコも神様モドキの幻魔なんだから」
正座している雨垂水玉姫に手を差し出し、ヨーコは彼女を立ち上がらせた。
「幻魔……とは?」
「この異界にいる者を人間が呼ぶための名よ。色々言ったけど私も
「お、恐れ多いですじゃ……」
腐ってもモドキでも高位の存在から同列に扱われて、恐縮しきりの下位神はどう反応すれば良いか分からずにもじもじとしている。
「まあまあ、そんなに緊張しない」
「わひぁっ」
がばっとユウコに後ろから抱かれて、雨垂水玉姫は体を跳ねさせた。
「同じ堕ちた神様同士、仲良くやりましょ」
「な、仲良く……が、がんばりますですじゃ……」
身を固くしながらも、少女神は頷く。
「タマちゃん」
「ん?…………むなっ!?」
雨垂水玉姫に向かって、突然ビシッと指をさしたのはサラだ。彼女が口に出したのが自身の呼称であると数拍遅れで理解した神は、驚愕の表情を浮かべて鳴いた。
「き、き、きさまっ!不敬っ、不敬じゃぞ!雨垂水玉姫という我が名を貶めるか!神に対してそのような事が許されるとでも―――」
「あら、良いわね」
「その通りですじゃ~!日照雨
ユウコの一言で前言を一瞬で翻し、彼女は自分の石で雨垂水玉姫改めタマとなった。何故か少女神はがっくりと肩を落とす。
「むぉ?」
タマがぴくりと体を震わせる。寒さからではない、己の身に何かしらの異変が生じているのに気付いたのだ。ぶるるっとひときわ大きく震えた所で、ヨーコ達は彼女の突然の変化に驚く。
「猫の耳と尻尾……?」
一瞬のうちに出現したのは獣のそれだった。
「な、なぁっ、け、獣の耳ぃ!?それに尾もっ!?」
自分の体に新たに生えた部分を、信じられないといった表情をしながら確かめる。何度も何度も確かめて、タマはそれが正しく自身から生えている事を認識してその場に崩れ落ちた。
「くぉぉ……。
四肢を地に付けた状態で、彼女は嘆く。
「タマちゃんに何が起きたんですか……?」
「神様って人間の認識と祈りで姿形を変えるものなのよ。荒々しい嵐の神がその猛々しさが武に通じるとして武神にもなる、とかね」
ユウコはしゃがんで、四つ這い状態の
「タマの場合、堕ちた事で祈る者がだーれもいないから、サラが名前を縮めて猫っぽいと認識したせいでこうなったのよ」
「わぁ不憫」
「でもかわいいからヨシ」
「誰のせいじゃ!こんの
他人事のように言うサラに対して、猫神になったタマが吠えた。
「あの、そもそもタマちゃんはどんな神様なんですか?」
「その呼び方や口調には引っ掛かるものがあるが、
自分よりも小さい子供に語りかけるようなアカリ。それであっても無礼千万なサラよりは百倍マシとタマは噛みしめ、丁寧な彼女の質問に答える。
「
「今はそれに猫ちゃん追加」
「誰のせいじゃ!」
シャーッとサラを威嚇するが、彼女がそんなもので怯むはずがない。噛みつこうとするタマの牙を躱して、その頭を果敢に撫でにいく。
「占い!今度、占ってほしいですっ」
「おお……やはり其方は良い娘じゃなぁ。うむ、もちろん占ってやろうぞ」
「私もお願いしたいな~」
「むむぅ、まあ良かろう。武神ではない
「私も」
「どの口で言うか!乞い願おうとも、ぜっっっったいに占わんぞ!」
「しょぼん」
サラは落ち込んだ。その悲しみを癒すために、盛大に嫌がる猫の頭を無遠慮に全力でナデナデした。
「中々に興味深い話であった、感謝しようタマ君」
「む、人の世からこちらを見ておるのか、随分と器用で面妖な」
異界を観測する目玉に気付き、タマは感心する。
「聞いておきたい事があるのだが、良いかね?」
「娘らと比べると誠実じゃな。良かろう、何なりと聞くが良い」
「そう答えてくれると思っていた、では―――」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべる博士の姿を、ヨーコ達は明確に脳裏に浮かべた。彼は外面だけは完璧な紳士なのだ、初対面の相手がゲンジョウを信用するのも無理は無い事である。彼は他者
こうしてタマは、
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