第14話 スライム進化

 なんと、ワラビは進化できるらしい。


「進化のパターンが複数あるので、マスターツヨシに決めていただきたいです」


「わかった。ボクでよければ、相談にのるよ」


 早速、修練場に。アドバイスを聞ける相手がほしいからね。


「こんにちは」


「おう、ツヨシじゃないか。それに、姫様まで」


 修練場のコーチが、メイヴィス姫たちにもあいさつをする。


「ここは空いているかしら?」


 メイヴィス姫が聞くと、コーチは手頃なスペースに誘導してくれた。


「ああ。みんなダンジョンに行ったから、今はギルドに入りたての奴らしか使っていない。バンバン使ってくれ」


「お願いするわ。それで、スライムの進化についてなんだけど」


 コーチとともに、スライムの進化について相談をする。


「進化システムなんだが、別に一度決めたら二度と他の進化ができないわけじゃない」


 成長のラインが遠ざかるだけだという。


 なので、ほとんどの人は特化型にせず、まんべんなく成長させていくらしい。なんでもやらせてみて、ある程度テイマーの戦闘スタイルが確立していけば、特化型に変えていくそうだ。


「特にスライムは、今まで進化するまで成長させたやつがいない。ツヨシがモデルケースになる。なので、慎重にな」


「はい」


 ボクが、スライム進化のさきがけになるのか。


「では、進化ルートをご説明します。まずは、【ライド・スライム】。身体が大きくなります。マスターツヨシを乗せて、戦うことも可能ですね」


 サイズは、さらに大きくなるという。ベッドくらいは大きくなるのか。特性として、テイマーを乗せるか、包んで戦うスタイルになるとか。


「パスかな……」


 スノーボード型のワラビで何度も戦っているから、特に必要性を感じない。寝るときは楽そうだけど。


 あと、ワラビの特性は「小ささ」だと思っている。このメリットを抜きにして、成長はさせたくないかな。


「続きまして、【マジック・スライム】。魔法に特化します。今までの機動力は、魔法詠唱速度に付与されますね。ですが、今の敏捷性は失われるでしょう」


 つまり、ワラビを砲台にして魔法を撃ち出すわけか。


「これは、キープかなぁ?」


 今のところ、戦闘スタイルとあまり変わっていない。だが敏捷性が失われると、ワラビがケガをする恐れがある。


「いや、でもパスだな」


 後衛にいるからと行って、矢や魔法だって飛んでくるのだ。回避率は、高い方がいい。いくらワラビが不死身のモンスターだからといって、ワラビを犠牲にした戦い方はしたくなかった。


「いいな、お前ら。テイマーがちゃんと、モンスターを労っている」


 次に紹介してくれたのは、【シャボン・スライム】である。泡になって戦う。軽量になり、毒属性を持つことも可能だ。


「かわいいけど、これはパスかな」


 プルプル感が、なくなってしまうのは惜しい。戦闘スタイルがまるまる変わってしまうから、慣れも必要だ。


「助かりました。制御が大変だから、候補にもあげたくなかったので」


 ワラビ自身も、選んでほしくなかったみたい。


「他には、【メタル・スライム】ですね。鋼鉄の体を手に入れて、よりダメージが通りづらくなります。敏捷性が、今よりも上がります。ただ、マスターツヨシがついていけなくなります」


 人間の速度をはるかに超える速度を手に入れられる。その代わり、ボクでも扱いに困る。


「他にも、火や水、雷などの特化した属性を持つことがでる進化もあります。デメリットは、どれも同じですね」


 強くはなるが、扱いには困るという。特化型だと、戦闘が制限されてしまう。


「メタルだと、物理特化ですからね。魔法も使えなくなりますし」


「じゃあ、パスだね」


 魔法に助けられているところもあるし。


「では最後に、【モーフ・スライム】です」


「毛布?」


「モーフィング・スライム。アイテムに変化できるスライムです」


 有効なのは、ローブだという。アーマーの上から着ることができて、アイテム扱いもされない。


 これなら、ワラビを持ち歩きながら行動ができる。また、いつでも変身解除は可能らしい。接敵して、元に戻して不意打ちを行える。なにより、ワラビを身近に感じられるのがいいね。


「とはいえ、ワラビが前線に立つことになるよ。いいの?」


「マスターツヨシとともに戦えるなら、いいかと」


「いいね。ひとまずそれでいこうか」


「では、モーフ・スライムに進化します」


 ワラビの身体が光った。だが、光が晴れてもワラビになんの変化もない。


「失敗しちゃったの?」


「いえ。進化は成功です。今から、お見せしましょう」


 プルンッ、と大きくワラビが跳ねた。ボクの目の前まで飛んできたと思ったら、一瞬でローブの形態を取る。

 ふわりと、ワラビローブがボクの身体を包んだ。

 オレンジ色のローブは、装備のファッション性を邪魔していない。表面がもっと冷たいのかなと思っていたけど、見た目に反して暖かみがある。


「似合ってるぜ、ツヨシ」


「そうね。ローブにも、ワラビちゃんの面影があるわ」


 一番感激していたのは、メイヴィス姫だ。


「なにこれ、最強じゃない! あたしにも着せて!」


「承知いたしました」


 ワラビがローブ状態のまま、メイヴィス姫に飛び移る。


「わあああ。これは素敵だわ。さっそく、『踊ってみた』を撮りましょう」


 踊ってみた、だって?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る