第15話 ワラビの『踊ってみた』動画

「コンラッド、撮影をお願い」


『承知』 


 メイヴィス姫が、コンラッドを召喚した。


 コンラッドが、姫から杖を預かる。杖を地面に突き刺すと、魔方陣が広がった。そのまま、杖は固定される。


『準備OKである。姫』


 杖の先を、コンラッドは自分の目に当てた。あれって、撮影機材にもなるのか。


「音楽をかけてちょうだい」


『御意。ミュージックスタート』


 コンラッドが、リュートのような楽器を肩にかけて奏でだした。


「演奏までできるのか」


「あのリュートも、召喚獣だってよ」


 センディさんが、そう話してくれる。


 聞いたこともない曲を流し始め、メイヴィス姫が歌い出す。声やキーの高さは、ボカロに近い。しかし、メロディは異国風という変わった歌である。


 曲に合わせて、メイヴィス姫はくるりんと回ったり、体を捻ったりした。このダンスも、ボクは見たことがない。


「あれは?」


「我が国のエルフが誇る、国民体操よ」


 コルタナさんが、教えてくれた。こちらでいう、ラジオ体操みたいなものなんだって。


「ホントは地球の曲に合わせて踊るのが、一番バズるんだけど。いわゆる『コンプライアンス』に引っかかっちゃうので、ギリギリのラインなのよね」


「例えば?」


「著作権よ」


 一応、我が国のルールに則って活動しているわけか。


「ワラビちゃんとの初コラボだから、みんなに覚えてもらおうって認識が、姫様はお強いのかもしれないわ。いきなりセンシティブな歌詞の曲で踊って、印象を悪くするのもよくないから」


 ワラビは子どもに人気だと言うし、姫様は「誰でも知っている曲で覚えてもらう」つもりなのだろう。


 ローブ姿だったワラビが、メイヴィス姫から離れた。


 スキップしながら、姫が手を叩く。


 姫の動きに合わせて、スライム姿のワラビがジャンプを繰り返した。


 ぱんぱんぱんぱん。プルンプルンプルンプルン。


 テイマーであるボクでも、見とれてしまう光景だ。


 最後は、メイヴィス姫がワラビを抱きしめて終わる。


「お疲れ様、ワラビちゃん! コンラッドも。ありがとうツヨシ! 楽しかったわ!」



「こちらこそ。微笑ましいダンスでした」


「よかったわ。気に入ってもらえて」


 メイヴィス姫から、ワラビを返してもらう。


 姫は、ワラビと一緒にシャワーを浴びに行った。


 夕飯の時間になり、姫も戻ってくる。


 今日の献立は、カレーライスだ。コルタナさんから教わって、ボクが作った。ワラビがたくさん動いたから、お腹が空いているだろうと。


「マスターツヨシ、このカレーはおいしいです」


「いつも、レトルトだったもんね」


 ダンジョンの後はヘトヘトで、料理どころじゃなかった。今はレベルも上がったからか、体力が余った状態でお買い物もできる。


「おいしいわ。いつもはコルタナが作ってくれるんだけどね。こちらはこちらで、素朴な味がするわ」


「こんな庶民的な味も、お好きなんですね」


「ええ。こういうのを食べたくて、地球に来ているから」


「地球の曲でダンスすることもあるって、聞きましたけど?」


「そうよ。コルタナが持ち帰ってきてくれるの」


 しょっちゅう元の世界に帰っては、コルタナさんは地球の文明をあちらに紹介しているとか。それが何百年も続いている。


「私ははじめ、別のグループにいたのよ。今は、センディがパートナーよ」


 コルタナさんによると、パーティの変更はもう五度目だそうで。


「老齢で引退したり、ダンジョンで死んでしまったりと、色々あったわ」


「そのダンジョンなんですが、どうして地球と繋がっちゃったんです?」


「世界は元々、一つだったのよ」


 姫やコルタナさんのいる星は、地球に近いがファンタジーのような世界である。


「大陸の変動ってあるでしょ? 自然現象や災害などで、地形が変わるようなこと。それが、星単位で発生したの」


 エルフという種族すら、存在していなかった時代の話だそうだ。


 あるとき、世界移動の魔法が開発されて、姫の先祖がこちらに来たという。


「でも、悪い魔物もあちらに流れてしまったの」


 今は規模が縮小されて、多少こちらに影響しなくなった。向こうの星で、取締が強化されたのだ。


「とはいえ、育ちきっちゃったダンジョンは抑えきれず。仕方なく、現地の冒険者で対処してもらうことになったのよ」


 今でも心霊スポットや、踏み入ってはいけない場所として封鎖されたエリアは、ダンジョンと呼ばれている。


「姫のいるサマーヘイズ王国は、悪い魔物を取り締まっているの。こちらからやってきた魔物が、地球で悪さをしないように」


「けれど、未だに根絶やしにはできないわねぇ。こちらで悪さをすると言っても、魔素が少なすぎて何もできないのがオチだけど」


 地球にいる魔物たちは、ダンジョンの中でしか本来の力を発揮できないという。


「でも、問題は発生しそうなの。ギルドから聞いた話なんだけど……」


 コルタナさんは、言いづらそうに話す。


「話してください」


「ギルドの上層部は、モンスターが人間を通じて、力を外に放出する手段を思いついたようなの。自ら操られることによって」


「魔物を操る冒険者って……」



「ええ。テイマーよ」

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